目には見えない環境問題「マイクロバイオーム」── 土壌と海を守る微生物が危ない

私たちの足元の土の中には、1グラムあたり数億から数十億もの微生物が生息しています。
細菌、真菌、ウイルスなど無数の生き物が複雑に絡み合いながら、地球の生態系を陰で支えているのです。

この目には見えない微生物の集合体を「マイクロバイオーム」と呼びます。
近年、温暖化やマイクロプラスチック汚染によって、このマイクロバイオームのバランスが崩れつつあることが明らかになってきました。

マイクロバイオームとは何か?

マイクロバイオームとは、土壌や人体など特定の環境に棲む微生物集団の総体のことです。
細菌をはじめとした多種多様な微生物によって構成されており、それ自体がひとつの精巧な生態系として機能しています。

「腸内フローラ」という言葉は多くの方に馴染みがあるかと思います。
実は、あれも腸内マイクロバイオームのひとつです。
同じように、土壌にも、海洋にも、それぞれの場所に固有のマイクロバイオームが存在しています。

特に土壌マイクロバイオームは、生態系における微生物多様性の源、いわば「貯蔵庫」として機能していることが示唆されています。
土壌、植物、動物、そして人間のマイクロバイオームは、これまで考えられていた以上に密接に相互につながっているのです。

土壌マイクロバイオームの働き── 見えない土台が生態系を支える

土壌中の微生物は、動植物の遺体や排泄物を分解して土壌有機物を作り出し、農作物が育つための「地力」を生み出しています。
また、マメ科植物の根に共生する根粒菌は、大気中の窒素を植物が利用できるアンモニアへと変換する重要な役割を担っています。

さらに注目すべきは、土壌マイクロバイオームの気候変動への関わりです。
土壌中の微生物は有機物を分解する過程で炭素を土の中に隔離しており、世界の土壌には大気中の2〜3倍もの炭素が蓄えられているとされます。
土壌は地球規模の炭素循環を左右する、巨大な「炭素の貯蔵庫」でもあるのです。

今、マイクロバイオームのバランスが崩れつつある

農業の集約化や都市化が進むにつれて、土壌マイクロバイオームの多様性が減少していることが明らかになっています。
多様性が低い土壌は病原菌の侵入に対する抵抗力が弱く、薬剤耐性菌の温床にもなりうることが研究によって示唆されているのです。
炭素の貯蔵庫である土壌が弱れば、大気中のCO₂濃度が上昇し、温暖化をさらに加速させるという悪循環が生まれます。

マイクロプラスチックが土壌微生物を直撃する

温暖化と並んで深刻なのが、マイクロプラスチックによる汚染です。
環境に流出したマイクロプラスチックは2020年時点で約270万トンに達するとも推定されており、2060年には約580万トンと倍以上になると予測されています。

土壌マイクロバイオームは、マイクロプラスチックをはじめ、農薬、重金属、抗菌薬など多くの化学汚染物質にさらされています。
さらに、複数の汚染物質が混在すると、単一の場合よりも強く土壌の機能を損なうことが実証されているのです。
マイクロプラスチックを含む土壌では植物の発芽や成長が阻害されるという報告もあり、食料生産への影響も懸念されます。

マイクロバイオームを守ることが地球を守ること

近年、菌根菌(植物の根と共生する菌類)を活用した緑化技術が注目されています。
この技術では、劣化した土壌や岩盤斜面でも植生を定着させることが可能で、1994年の雲仙普賢岳噴火後の跡地での緑化成功など、国内外で実績が積み重なっているのです。

また、土壌の炭素貯留能力を高める特定の真菌微生物を種子に組み合わせるアプローチや、生物多様性を重視した「リジェネラティブ農業」も、マイクロバイオームの回復手段として期待されています。

私たちの日常レベルでも、できることがあります。
マイクロプラスチックの主な発生源は使い捨てプラスチックや合成繊維の衣類など、日常生活に身近なものばかりです。
プラスチック消費を意識的に減らすことが、土壌の微生物たちを守ることへと直接つながっています。

目には見えないけれど、確実に存在し、地球の生命を支えているマイクロバイオーム。
その小さな世界を守ることは、私たち自身の未来を守ることでもあるのです。

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