世界的に、温室効果ガスの排出量削減や吸収などの気候変動対策が求められています。
注目を集めているのが、大気中の二酸化炭素を回収する「岩石風化促進法(ERW)」と、「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」です。
温室効果ガスの排出量削減とともに、これらの技術が実現されると、気候変動対策に有効でしょう。
目次
石が二酸化炭素を吸収する
「岩石風化促進法(ERW)」といわれる革新的な技術が研究されており、地球温暖化対策として注目を浴びています。
天然の火山岩である、玄武岩を細かく砕いた粉末を、農地に撒くと、化学反応によって、二酸化炭素を大量に地中に閉じ込められる技術です。
玄武岩には、カルシウムやマグネシウムが多量に含有しており、これらが大気中の二酸化炭素と化学反応を起こし「石化」させて封じ込める仕組みです。
農業の現場では、以前から農業用石灰を土壌に撒く場合があり、岩石風化促進法(ERW)は比較的なじみやすく、取り入れやすいことが利点の一つとされています。
石灰がもつ役割
石灰は、酸性の土壌を中和させる働きがあるため、農業で活用されてきました。
さらに、岩石風化促進法(ERW)で用いられる玄武岩にも、土壌の質を高め、農産物の生産性向上に貢献できる可能性が指摘されています。
そのため、岩石風化促進法(ERW)は、未来の食糧危機への対策としても期待されているのです。
また、2015年にフランスで採択されたパリ協定では、以下のような世界共通の長期目標が設定されました。
● 世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度未満に抑えること(可能であれば1.5度以内に抑える努力をする)
● 21世紀後半までにカーボンニュートラルを実現させること
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引いて、ゼロになる状態を指します。
目標を達成するために、世界各国で温室効果ガスの排出量削減と、吸収技術の導入が求められているのです。
岩石風化促進法(ERW)を活用して大気中の温室効果ガスを取り除くことは、目標を成し遂げるために有効であり、実用化に期待が寄せられています。
身近な事例:農業で土に撒く石灰
農業の現場では、従来より農業用の石灰が利用されています。
土に撒くことで、土壌の調整や栄養素補給の効果を得られるため、身近な技術として広く用いられてきました。
具体的には、石灰には以下のような作用が見込まれています。
● 酸性土壌の中和
● カルシウムの補給
● 栄養素吸収の効率化
● 土壌の排水性、通気性の改善
● 病気、害虫の予防
● 農産物の品質改善と収穫量増加
このような目的から、農産物の栽培を開始する前や、収穫後に土に撒くのが一般的です。
石灰が染み込み、土壌の質を改善させるには、一定の期間を要するためです。
秋から冬に撒くと、雨や雪解けの水とあわせて土壌に緩やかに吸収され、春の種撒きや、苗植えに向けて土壌を整えられます。
石灰を利用したDACプラントの実装が進む
ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)とは、大気中の二酸化炭素を回収する技術です。
このような、人為的な気候変動対策はジオ・エンジニアリング(気候工学)と呼ばれます。
温室効果ガスを削減するための方法として、岩石風化促進法(ERW)とともに注目されているのです。
2023年に、アメリカのスタートアップ「エアルーム(Heirloom)」は、アメリカで初めてダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)を利用した施設を開設しています。
そして、2035年までに累計10億トンの二酸化炭素を除去する目標を掲げています。
実現すると、パリ協定の目標である、カーボンニュートラルの達成に大きく寄与するでしょう。
DAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)とは
ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)は、具体的には次のような手順で二酸化炭素を回収します。
大型ファンを回転させ、空気を内部へ取り込み、石灰石を用いた吸着剤に二酸化炭素を付着させます。
その後、加熱して分離させた二酸化炭素を、回収するシステムです。
回収された二酸化炭素は「二酸化炭素回収・貯留(CCS)」と呼ばれる技術を用いて、圧縮された状態で、恒久的に土の中や海底に貯留されます。
この手順を反復することで、大量の二酸化炭素を回収できる、効率的なシステムです。
さらに、吸着剤は、繰り返し利用できることも利点の1つです。
ERW技術やDAC技術でCO2を削減し、脱炭素社会の実現へ
玄武岩を粉末にして、農地に撒くと、大気中の二酸化炭素を吸収できる「岩石風化促進法(ERW)」が注目を集めています。
研究では、岩石風化促進法(ERW)は、大気中にある二酸化炭素を吸収するだけでなく、土壌の質を高め、農産物の生産性向上に貢献できる可能性もあるとされています。
このことから、未来の食糧危機への対策に寄与する重要な役割も期待されているのです。
また、大気中の二酸化炭素を除去するダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)も注目されています。
いずれも、大気中の二酸化炭素の濃度を下げる手法です。
温室効果ガスの排出量削減とともに、これらの技術が活用されると、カーボンニュートラル達成に寄与するでしょう。