都会の夏は、ビルやアスファルトの影響で郊外よりも暑く感じることがあります。
これは「ヒートアイランド現象」と呼ばれるもので、都市の気温が周囲より高くなる問題です。
そんな中、都市に自然の風を取り込む「風の道」という考え方が注目されています。
東京駅周辺をはじめとする日本国内の事例や、海外の先進的な取り組みを見ながら、ヒートアイランド対策としての「風の道」の仕組みと可能性を理解していきましょう。
目次
「風の道」とは何か?—ヒートアイランド現象を緩和する都市の呼吸
都会では、郊外よりも気温が高くなる「ヒートアイランド現象」が起こっています。
これは、建物や道路が熱をため込み、夜になっても温度が下がりにくくなるためです。
ヒートアイランド現象の主な原因は、次の3つです。
1.人工排熱の増加
建物のエアコンや車、工場などから出る熱は、大気を暖めます。
特に空冷式エアコンや燃料の燃焼で発生する熱は、都市の気温上昇に大きく影響します。
2.地表面の人工化
アスファルトやコンクリートなどの舗装面や建物の屋根は、夏の日差しで50〜60℃まで熱くなります。
この熱が夜になってもなかなか冷めないため、都市全体の温度を押し上げます。
3.都市の高密度化
空き地が減り、高層ビルが増えると風通しが悪くなり、熱がこもりやすくなります。
また、建物が密集していると夜間の放射冷却も妨げられ、熱が逃げにくくなります。
こうした暑さ対策として注目されているのが「風の道」です。
「風の道」とは、海や山、緑地など涼しい風を運ぶ自然の通り道を、都市の中に確保することを指します。
河川や街路、公園、建物の間の隙間などが連なることで、地上付近に風を取り込み、空気の流れを良くする効果があります。
都市に自然な風を取り入れることで、ヒートアイランド現象の緩和が期待できるのです。
東京駅周辺での「風の道」的取り組み(日本の事例)
東京湾に近い品川駅や田町駅周辺では、高層ビルの建設や再開発の際に「風の道」を確保する取り組みが進められています。
これは、海から吹く涼しい風を都市の中に通すことで、ヒートアイランド現象による暑さをやわらげるためです。
東京都が2020年に公表した指針では、地上50メートルの高さで風速毎秒4メートル以上の風を「風の道」と定めています。
新しい建物を建てる際には、開発前の風の流れの50%以上を維持できるよう、高さを50メートル以下に抑えたり、建物同士の間隔を広くしたりするなどの工夫が求められます。
さらに、事業者は建設前に気流シミュレーションを行い、どのように風の道を確保するかを都に提出し、確認を受けることが必要です。
東京都の担当者は、「風の道づくりは東京湾から内陸に風を取り込む重要な施策です」と説明しています。
このように、都市の暑さ対策として「風の道」を意識した建物配置や街づくりは、東京駅周辺でも実践されており、涼しい都市環境づくりのモデルとなっています。
ドイツ・シュトゥットガルトの「風の道」の先進事例
ドイツ南部にあるシュトゥットガルト市では、バーデン=ヴュルテンベルク州の環境省が「シュトゥットガルト広域都市圏大気浄化基本計画(Luftreinhalteplan)」を策定しています。
その中で注目されるのが、「風の道」を活かした都市づくりです。
市街地の暑さや大気汚染をやわらげるため、地表面の温度分布や風向・風速が詳細に調査されました。
そして、道路や公園、森林、建物の配置を見直すことで、清浄で涼しい風を市街地に取り込む計画が立てられています。
シュトゥットガルトでは、都市の建物や緑地の配置を工夫することで、風の通り道を確保し、街全体の換気を促進しています。
これにより、夏の暑さをやわらげ、住民に快適な生活環境を提供することが目指されているのです。
ソウルの「風の道」—都市に冷たい風を呼び込む工夫
韓国・ソウル市では、清渓川の復元事業をきっかけに「風の道」を活かした都市づくりが進められています。
復元後の河川周辺で夏季に行われた気象観測では、河道に沿って流れる西寄りの風が、河川に直交する南北の街路に分散して流れ込みました。
その結果、風速が1メートル毎秒増すごとに、気温が約0.3~0.4℃下がることが確認されています。
この観測結果から、河川沿いの「風の道」を活かすことで、都市内の暑さを効果的にやわらげることがわかりました。
ソウルの事例は、都市計画において自然の風を取り込む工夫が、ヒートアイランド対策として有効であることを示しています。
風の道がもたらす都市の快適性
「風の道」は、都市のヒートアイランド対策として効果的な手段です。
東京駅周辺のように建物の高さや間隔を調整する日本の事例や、シュトゥットガルトやソウルの海外事例からも、都市計画に風を取り込む工夫が重要であることがわかります。
都市に自然の通り道をつくることで、暑さをやわらげるだけでなく、快適で住みやすい街づくりにもつながります。
これからの都市開発では、ヒートアイランド現象を意識した「風の道」の設計が欠かせないでしょう。