近年、クマやイノシシ、アライグマなどの野生動物が都市部や人の住環境に姿を現すケースが急増しています。
背景には、森林の減少や気候変動、都市のゴミや農作物といった豊富な餌の存在など、人間社会と自然環境の変化が複雑に絡み合った要因があります。
目次
野生動物が都心や住環境に進出する原因
近年、クマやイノシシ、ハクビシンなどの野生動物が都市部や人の住む地域に現れるケースが増えています。
その背景には、単なる偶然ではなく、人間の暮らしや環境の変化にともなうさまざまな要因があります。
環境破壊と生息地の減少・分断
森林開発や都市開発、植林などにより、野生動物の自然な生息地が縮小・分断されてしまい、食料や住処を求めて都市部へ移動せざるを得ない状況が増えています。
例えば、クマは森の減少やスギ植林の影響を受けて食料不足に陥り、人里や都心近くに降りてくることが多くなっています。
食料源の豊富さと天敵の少なさ
都市部やその周辺では、人間のゴミや残飯、農地の作物などが豊富にあり、野生動物が餌に困ることが少なくなっています。
また、天敵が少ない環境で安全に暮らせるため、ハクビシンやアライグマなどは都市の屋根裏や緑地に棲みつくケースが増えています。
狩猟圧の低下と個体数の増加
地方の過疎化や狩猟者の減少により、野生動物の捕獲圧が弱まり、個体数が増加。
結果として人里付近に出没する頻度も増えています。
これがクマやイノシシの被害増にもつながっています。
気候変動による生息域の変化
地球温暖化により冬季の積雪量が減ったことで、従来は山深い場所に留まっていたクマなどが移動範囲を広げて都心近くに出没しやすくなっています。
また、食物連鎖にも変化が生じ、自然の餌が不足することで人里に降りる動物が多くなっています。
野生動物による被害額の推移と被害状況
農林水産省は、全国の都道府県から報告を受けて、令和5年度における野生の動物による農作物への被害状況をまとめました。
市町村からの報告をもとに集計されたデータから、被害の規模や傾向が明らかになっています。
・全国の被害概要
被害額:全国で約164億円にのぼり、前の年度から8億円増加しました。
被害面積:およそ4万1千ヘクタール(前年度比+7千ヘクタール)
被害量:51万トン(同+4万トン)
被害は年々大きな金額・面積・量に拡大しており、深刻な状況が続いています。
・主な原因となった動物とその傾向
イノシシ:被害額は36億円で、前年度からわずかに減少(▲0.1億円)しました。
シカ:被害額は70億円と最も多く、前年度比で4.5億円の増加。
クマ:被害額は7億円で、前年度から3.4億円増加しています。
このように、イノシシの被害はやや減少傾向にある一方で、シカやクマなどによる被害が大幅に増えているのが特徴です。
野生動物の種類・地域ごとの特性
・北海道:ヒグマ
北海道では、森林減少や積雪量の減少などの環境変化を背景に、ヒグマの市街地周辺への出没が増加しています。
北海道の住宅街や近郊での遭遇、被害が深刻化しており、地域社会の安全対策が急務となっています。
・東北~関東地方:ツキノワグマ、イノシシ
東北以北〜関東地域では、ツキノワグマやイノシシが食料確保のために市街地近くに出没することが多くなっています。
ブナ科の堅果類の凶作による餌不足が大きな出没要因と考えられ、耕作放棄地の拡大や人口減少による人間活動の減少も背景にあります。
・関東以西:アライグマ、ハクビシン
東京都多摩地域を中心に、アライグマやハクビシンの出没が区部へと拡大しています。
これらの動物は都市のゴミや住宅の屋根裏を住処にし、ゴミ荒らしや騒音、建物被害など生活環境に深刻な影響を及ぼしています。
・全国的に見られる野生動物:シカ、イノシシ、カラス
全国的には、シカ、イノシシ、カラスが農業被害のトップクラスを占めています。
特にシカは森林の若木を食害し、植林努力の妨げとなっており、森林生態系にも悪影響が出ています。
イノシシも農作物を胃荒らし、環境と生活の双方で問題となっています。
このように各地域で動物の種類や特徴、被害状況に違いがあり、地域の生態環境変化や人間社会の動きが複雑に作用しています。
持続可能な共生への道
都市や農村で野生動物による被害が増加している背景には、森林開発や気候変動、狩猟圧の低下といった環境破壊や社会構造の変化が大きく関わっています。
こうした問題は、単に動物を「追い払う」だけでは解決できません。
被害の軽減と野生動物の生息環境の保全を両立するためには、地域ごとの実情に応じた柔軟で持続可能な管理計画が求められます。
さらに、行政や専門機関だけでなく、市民一人ひとりの理解と協力も不可欠です。