私たちの暮らしを支える自然環境が失われつつある中、日本政府は「ネイチャーポジティブ」という新しい考え方を掲げています。
自然を回復軌道に乗せ、2030年までに生物多様性の損失を止め、反転させることを目標としています。
目次
ネイチャーポジティブとは?自然を回復軌道に乗せる新しい目標
ネイチャーポジティブ(自然再興)とは、失われつつある自然や生態系を回復軌道に乗せ、持続可能な状態に戻すことを目指す考え方です。
具体的には、生物多様性の損失を止め、さらにその損失を反転させることを意味します。
日本では、2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」において、2030年までにネイチャーポジティブを達成することが目標として掲げられました。
この2030年目標は、2050年の長期ビジョンに向けた短期的なマイルストーンです。
ネイチャーポジティブの取り組みでは、私たちの暮らしや社会経済活動の基盤となる健全な生態系を守り、自然の恵みを維持・回復させることを重視しています。
また、これまでの生物多様性保全施策に加え、気候変動対策や資源循環など、さまざまな分野の政策と連携して推進されます。
自然と人間社会が共存できる仕組みをつくり、持続可能な社会の実現を目指すのがネイチャーポジティブです。
ネイチャーポジティブを目指すための基本戦略と行動計画
- 生態系の健全性を回復する取り組み
日本の自然や生物多様性は、これまでの保全努力により少しずつ改善されてきましたが、依然として危機的な状況にあります。
生態系が健全でなければ、私たちの暮らしを支える自然の機能も十分に働きません。
そのため、森林や河川、里山などの環境を守り、失われた自然を回復させる取り組みが進められています。 - 自然を活かした社会課題の解決
日本は人口減少や高齢化、気候変動といった社会課題に直面しています。
同時に、里地里山の荒廃や野生動物による被害など、自然が十分に活用されていないことによる問題も。
そこで、自然の恵みを活かして地域経済を活性化させたり、気候変動の緩和や適応策として自然の力を利用する取り組みが行われています。 - ネイチャーポジティブ経済の実現
企業や事業者は、商品やサービスの提供を通して自然を利用しており、その影響は国内外の生物多様性にも及びます。
生物多様性に配慮した事業活動は、社会や経済の持続可能な発展に不可欠です。
そのため、企業の取り組みを支援し、環境負荷を減らしつつ経済活動を続けられるネイチャーポジティブ経済の実現を目指しています。 - 生活や消費での意識と行動の変化
生物多様性の重要性について、多くの人々にまだ十分に認識されていません。
現代の暮らしでは自然との関わりが薄くなっているため、日常生活や消費活動を通して自然とのつながりを取り戻す取り組みが必要です。
例えば、身近な行動として地元産の食材を選ぶ、環境に配慮した商品を購入するなど、個人の行動変容を促すことが重要です。 - 基盤整備と国際連携の推進
生物多様性の保全は、地方自治体や民間企業など、多くの主体による取り組みに支えられています。
また、日本だけでなく、海外からの資源や国際的な物流の影響も考えると、国境を越えた協力が不可欠です。
国内外の取り組みを支える基盤を整備し、地球規模での生物多様性保全と持続可能な利用への貢献を推進しています。
企業や金融機関への働きかけでネイチャーポジティブを推進
新しい国家戦略では、「ネイチャーポジティブ経済の実現」が重要な柱となっています。
これは、企業活動や経済の仕組みが自然に与える影響を減らしつつ、持続可能な経済を目指す取り組みです。
企業には、事業活動が生物多様性にどのくらい依存しているか、またどの程度影響を与えているかを数値で評価し、現状分析や目標設定、情報公開を行うことが求められます。
これにより、自然への負荷を可視化し、改善策を進めやすくなるのです。
さらに、金融機関や投資家も、生物多様性を守り、回復させる方向で投融資を行うことが期待されています。
これにより、資金の流れを通じて、持続可能なビジネス活動を支える仕組みが整うでしょう。
国家戦略では、健全な生態系を回復させるため、陸域と海域の30%以上を保護区に指定する目標も掲げられています。
また、生物多様性の損失と気候変動の問題を結びつけた施策も導入され、環境保全と経済活動を両立させる方向性が明確に示されています。
日本政府が目指す自然と共生する未来をつくるために
ネイチャーポジティブとは、失われつつある自然や生態系を回復し、持続可能な状態に戻すことを目指す考え方です。
日本政府は「生物多様性国家戦略2023-2030」で、2030年までにネイチャーポジティブを達成することを目標に掲げています。
取り組みは、生態系の回復や社会課題の解決、企業活動での生物多様性配慮、私たち一人ひとりの生活・消費の行動変容、国内外の連携など、多方面にわたります。
日常生活でも、自然を守る活動や環境配慮の行動を通して、ネイチャーポジティブに貢献できるのです。
この取り組みにより、自然と共生しながら社会や経済を持続させ、未来の日本の豊かな暮らしを守ることが可能になります。