私たちは氷河と聞くと、北極やヒマラヤなど遠くの高緯度地域を思い浮かべがちです。
しかし、日本の山々にも実は氷河が存在しています。
氷河と呼ぶためには、ただ雪や氷が残っているだけではなく、厚い氷の塊が長い時間をかけて斜面をゆっくりと流れ続けていることが確認される必要があります。
日本の氷河は規模こそ海外の巨大氷河に比べると小さいものの、地形や気候の条件によって何千年も存在しており、私たちの水資源や自然環境に密接に関わっているのです。
遠く離れた北極やヒマラヤだけでなく、身近な日本の山々にも“凍った命綱”とも呼べる氷河が息づいています。
日本にも氷河が存在する
氷河と聞くと北極やヒマラヤなどの高緯度地域を思い浮かべがちですが、実は日本の山々にも氷河があります。
氷河と呼ぶためには、単に雪が残っているだけではなく、厚い氷の塊が斜面をゆっくりと流れ続けていることが確認される必要があります。
立山連峰の氷河発見の歴史
1999年、立山の内蔵助カールで永久凍土が発見され、数年の調査によりその流動性と持続性が確認されました。
2012年には日本雪氷学会が剱岳の三ノ窓雪渓、小窓雪渓、立山の御前沢雪渓に現存する氷河の可能性を報告し、その後正式に「三ノ窓氷河」「小窓氷河」「御前沢氷河」と命名されました。
これにより、極東における氷河の南限が日本の立山連峰であることが明確になりました。
さらに2018年には、長野県と富山県にまたがる北アルプスの鹿島槍ヶ岳にあるカクネ里雪渓が氷河であることが学会誌に発表され、日本国内で4例目の氷河として認定されました。
その後の調査で、剱岳の池ノ谷雪渓や立山内蔵助雪渓も氷河であることが確認され、2019年には唐松岳の唐松沢雪渓も加わり、日本国内で確認された氷河は最大7カ所となっています。
北アルプスで新たに確認された日本の氷河
2025年2月、新潟大学を中心とした研究チームは、長野県白馬村の北アルプスにある「杓子沢」と「不帰沢」の2つの雪渓が氷河であることを確認しました。
これらの雪渓は夏でも雪が溶け残り、厚さはそれぞれ最大43メートルと29メートルに達します。
年間でそれぞれ約3.6メートル、1.9メートルの速度で氷が下方に流れていることも観測されました。
周囲には他の氷河も点在しており、北アルプスには現在、合計で9カ所の氷河があることが確認されています。
地球温暖化による日本の雪と氷河への影響
地球温暖化はほぼ確実に進行しており、過去100年で世界平均気温は0.74℃上昇、日本では1.2℃上がりました。
21世紀末までにはさらに2~4℃上がると予測されています。
こうした温暖化は、日本の雪や氷河にどのような影響を与えるのでしょうか。
気温が上がると、全国的に年最大積雪量は減少すると考えられています。
ただし、厳冬期(12~2月)だけを見ると、平野部では減少傾向にあるものの、山間部や内陸ではほとんど変わらず、北海道の一部ではむしろ積雪量が増える可能性も指摘されています。
温暖化が進むと海水温が上昇し、大気中の水蒸気量も増加します。
その結果、山間部では雪の量が増える場合があり、北陸地方の豪雪も今後は頻繁になる可能性があります。
立山連峰の氷河も、厳冬期の積雪量はほぼ現状維持か、むしろ増加する予測です。
気温が2℃上昇した場合でも、積雪は7メートルから若干減る程度に留まります。
しかし、秋や春の積雪量は大きく減少するため、総合的な氷河の変化はまだ不確定です。
日本の氷河を守ることは未来の水を守ること
雪に関しては「ある日突然降らなくなる」という事態は起こりません。
むしろ年ごとの自然変動のほうが大きいため、まずは今年の冬の状況を把握することが大切です。
しかし、長期的な温暖化の影響を無視してはいけません。
山の雪は冬の間に水を貯め、春に融けて里へ供給されるため「天然のダム」と呼ばれます。
温暖化により雪ではなく雨が増えると、山に蓄積される水の量が減り、春の水不足につながる可能性があります。
自然環境は複雑に絡み合っており、温暖化による雪や氷河への影響を正確に予測することは困難です。
それでも、地域や行政と協力し、数十年先を見据えた雪や水資源への適応策を考え、行動を始めることが重要です。

