海の森が消えていく――海藻・藻場の役割とブルーカーボンの可能性

2026.4.30

海の底にも、陸と同じように「森」が広がっています。

コンブやアマモが茂る「藻場(もば)」は、魚介類のすみかとなり、海水をきれいにし、さらには地球温暖化の対策にも貢献する、知られざる環境インフラです。

しかし今、その海の森は急速に失われつつあります。

「海藻」と「海草」、実は別物? 基本の違いを知ろう

「海藻」と「海草」は名前が似ていますが、生物学的にはまったく異なる存在です。

海草とは、アマモに代表される海産種子植物です。

陸上の植物と同じように花を咲かせ、種子で繁殖します。

比較的浅い場所に多く生育し、根・茎・葉の区別がはっきりしているのが特徴です。

一方、海藻とは、コンブやワカメのような胞子で増える藻類のこと。

その「根」は栄養を吸収するためではなく、岩などに固着するためのものです。

葉の色によって緑藻・褐藻・紅藻の3種類に分けられます。

世界には約2万種の海藻が存在するとされており、食用になるのはそのうち約50種程度といわれています。

どちらも「藻場」を構成する大切な存在ですが、性質が異なるため、対策や研究においても区別して考えることが重要です。

海の森「藻場」が果たす役割

藻場は、海中における多面的な環境インフラとして機能しています。

①水質の浄化・酸素の供給

藻場の海藻・海草は、チッソやリンといった汚染物質を吸収し、海水の富栄養化を防いでいます。

同時に、光合成によって酸素を生み出し、海の生き物たちの生存を支えているのです。

陸から汚れた水が流れ込んでも、藻場が自然のフィルターとして機能し、海をきれいに保つ役割を担っています。

②生物多様性の維持・漁業資源の育成

藻場は、魚の赤ちゃんが天敵から身を隠す隠れ家となり、アワビ・サザエ・エビ・カニなど多様な生物のすみかとなっています。

海藻の葉の上や葉の間には小さな甲殻類や貝類が生息し、それを捕食する魚が集まることで、豊かな食物連鎖が生まれます。

藻場は沿岸漁業の生産力を支える、いわば「海の苗床」でもあるのです。

③海岸線の保全・その他の機能

藻場は、波浪を和らげて海底の砂や泥が流出するのを防ぐ役割も果たしています。

また、シュノーケリングやダイビングなどの保養・レクリエーションの場、環境学習の場としての機能も持っています。

日本の藻場は今どうなっているのか?「磯焼け」という危機

「磯焼け」とは、浅海の岩礁・転石域において、海藻の群落(藻場)が著しく衰退・消失し、回復しない状態が続く現象を指します。

陸でいえば、山が丸裸になった状態に近いイメージです。

水産庁の磯焼け対策ガイドライン(2020年アンケート調査に基づく)によると、藻場の衰退を持続させる要因としては、ウニの食害(26%)が最多で、次いで植食性魚類の食害(21%)と海水温の上昇(21%)が続いています。

気候変動の影響が上位を占めている点も、近年の深刻な課題として注目されています。

西日本ではアイゴやブダイ、北日本ではウニ類が藻食性動物として藻場に大きな打撃を与えており、各地で問題となっているのです。

ブルーカーボンとは何か? 海が持つCO2吸収の力

近年、地球温暖化対策の新たな切り札として注目されているのが「ブルーカーボン」です。

森林だけでなく、海にもCO2を吸収・貯留する大きな力があることがわかってきました。

海が蓄える「青い炭素」

「ブルーカーボン」とは、藻場や干潟などの海洋生態系に蓄積される炭素のことを指します。

2009年に国連環境計画(UNEP)の報告書で初めて命名され、大気中のCO2吸収源対策の新たな選択肢として世界的に注目されるようになりました。

ブルーカーボンを吸収・貯留する「ブルーカーボン生態系」としては、マングローブ林、海草藻場、湿地・干潟、そして海藻藻場の4つが挙げられています。

陸上の森林(グリーンカーボン)と比べて、ブルーカーボンのCO2吸収率は約30%と高く、陸上植物の約12%を大きく上回ります。

また、水中での貯留期間が数十年から数千年と長い点も大きな特徴です。

日本が世界初——藻場のCO2吸収量を国連へ報告

2024年4月、日本政府は2022年度の藻場によるCO2吸収量を合計約35万トンと算定し、国連の温室効果ガス排出・吸収量の報告に初めて盛り込みました。

海藻藻場のCO2吸収量を国連に報告したのは、日本が世界で初めてのことです。

また、2020年度からはジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が「Jブルークレジット®制度」を開始しており、藻場の保全活動で得たCO2吸収量を認証・売買できる仕組みが整いつつあります。

まとめ:海の森を守るために、私たちにできること

藻場の保全には、行政・研究機関だけでなく、漁業者・NPO・企業・市民など多様な主体の連携が不可欠です。

磯焼け対策としては、ウニの駆除や藻場の移植・再生が各地で実施されており、その活動で得たCO2吸収量をJブルークレジット®として換金する取り組みも広がり始めています。

海の森の豊かさを次世代に引き継ぐためには、まずその存在と危機を「知る」ことが最初の一歩です。

ふだんの食卓に並ぶワカメやコンブ、アワビやサザエ——それらがすべて、海の森のおかげで育まれていることを、ぜひ思い出してみてください。

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