広大な太陽光発電所の中を、羊の群れがのんびりと草を食む。
そんな光景が、いま世界各地で広がっています。
「ソーラーグレージング」と呼ばれるこの取り組みは、単なる除草の工夫にとどまらず、再生可能エネルギーの普及と温暖化対策を加速させる、意外な切り札として注目されています。
目次
ソーラーグレージングとは?── 太陽光発電所で羊が働く理由
ソーラーグレージングとは、太陽光発電所の敷地内に羊などの家畜を放牧し、自然の力で雑草管理(除草)を行う手法のことです。
太陽光パネルの周辺に雑草が繁茂すると、パネルに影を落として発電効率が低下するほか、設備の故障や周辺地域とのトラブルの原因にもなるため、定期的な除草が欠かせません。
これまでは人力での草刈りや除草剤の散布が主流でしたが、その代替手段として、設備を傷めにくく穏やかな性質を持つ羊を活用する方法が広がりつつあります。
なぜ「羊」が選ばれるのか
羊は土を掘り返す習性がなく、パネルの架台や配線を傷つけにくいため、太陽光発電所での放牧に特に適しているとされています。
背が低いため、成長してもパネルに影を落としにくいことも採用が進む理由のひとつです。
また、羊にとってもメリットがあります。
パネルの日陰で暑さをしのげるほか、クローバーなどの雑草を自由に食べられるという快適さがあり、太陽光発電と羊の放牧は双方にとって都合のよい関係といえます。
世界で急成長するソーラーグレージング
ソーラーグレージングはいま、米国を中心に急速な広がりを見せています。
米国内で羊が放牧されている太陽光発電用地は30州にまたがり13万エーカー(約5.3万ヘクタール)を超えているといわれています。
なお、ソーラーグレージング事業者の3分の1以上を女性が占め、参加者の平均年齢は全米の農業従事者平均よりも若いことも明らかになっており、若い世代や女性の新規就農を後押しする役割も担っていることがうかがえるでしょう。
日本でも始まった「ソーラーグレージング」── 北海道・白糠町の挑戦
日本でも、ソーラーグレージングの本格導入が始まっています。
2024年7月、三菱UFJ銀行・町おこしエネルギー・大阪ガスの3社が、北海道白糠町で「白糠ソーラーグレージング発電所」に関する基本合意書を締結しました。
これは、メガソーラー規模での営農放牧型太陽光発電システムの導入としては国内初の事例です。
この取り組みでは、発電された電力の環境価値を大阪ガス・三菱UFJ銀行が長期購入することで、国内残存排出量の約20%に相当する年間約8千トンの温室効果ガスを20年間にわたり削減する計画となっています。
北海道東部では畜産農家の減少により使われなくなった放牧地が増加しており、本事業はこうした遊休地を再生する役割も担っています。
羊×梅×太陽光──「三層循環農業」という新しい挑戦
岩手県洋野町の株式会社OFF THE GRIDでは、太陽光発電設備の下で梅を栽培し、さらに羊を放牧する「アグロフォレストリー型ソーラーグレージング(三層循環農業モデル)」を進めています。
羊が雑草を食べることで除草作業の負担を大幅に軽減できるほか、羊の排泄物が梅の木を育てる天然の肥料となり、規格外の農作物や加工残渣も羊の飼料として活用することで、廃棄物を出さない循環型の仕組みを構築しているのです。
太陽光パネルが生み出す「ほどよい日陰」は、夏場の羊にとっても梅の若木にとっても、過ごしやすい環境を提供しています。
まとめ:ソーラーグレージングが温暖化対策に貢献する理由
ソーラーグレージングは、再生可能エネルギーの普及拡大と温暖化対策の両面から重要な意味を持っています。
日本は国土の約7割が森林に覆われており、平地の農地は貴重な資源であるため、太陽光発電所の新設には「山林を伐採して環境を破壊する」という課題がつきまとってきました。
ソーラーグレージングは、すでに牧草地であった耕作放棄地や遊休農地をそのまま活用できるため、大規模な造成や森林伐採を伴わずに太陽光発電を拡大できる点が大きな利点です。
加えて、除草剤を使わない管理方法は土壌や水質、生態系への負荷も抑えられます。
日本政府は2030年度の電源構成において再生可能エネルギー比率を36〜38%とする目標を掲げており、ソーラーグレージングは再生可能エネルギーの普及と生物多様性の保全を同時に進められる手法として期待されています。
太陽光パネルの下を歩く羊たち。
その何気ない光景の裏側には、温暖化対策と地域の持続可能性をともに実現しようとする、新しい挑戦が広がっています。

