「エルニーニョ現象が起きると、世界各地で干ばつや猛暑が深刻化する」というニュースを目にすることが増えました。
しかし、エルニーニョ現象そのものは、人間活動が引き起こした環境問題ではなく、はるか昔から繰り返されてきた「自然現象」です。
問題は、地球温暖化によって気温の「底上げ」が起きた現代において、エルニーニョが重なったときの影響がこれまでより深刻になっていることにあります。
目次
エルニーニョ・ラニーニャ現象とは?── 昔から繰り返されてきた自然変動
エルニーニョ現象とは、太平洋の赤道付近から南米の海岸にかけて、海の表面の水温がいつもより高い状態が約1年続く自然現象のことです。
気象庁では、エルニーニョ監視海域の海面水温が基準値より0.5℃以上高い状態が6か月以上続いた場合を「エルニーニョ現象」と定義しています。
逆に、同じ海域で海面水温が基準値より0.5℃以上低い状態が6か月以上続く現象を「ラニーニャ現象」と呼びます。
両者は平均2〜7年のサイクルで交互に現れる自然現象であり、「エルニーニョ現象が地球温暖化によって引き起こされる」というわけではありません。
数十年単位の長い歴史の中で、繰り返されてきた現象です。
エルニーニョが起きる仕組み──「貿易風」が鍵を握る
通常、赤道付近では東から西へ「貿易風」が吹いており、この風が太平洋西側(インドネシア沿岸)へ暖かい海水を吹き寄せています。
一方、東側の南米ペルー沖では海の深いところから冷たい水が湧き上がり、豊かな漁場が形成されます。
ところが何らかの要因で貿易風が弱まると、西側に溜まっていた暖かい海水が東方へ広がり、東側では冷水の湧き上がりも弱まるのです。
その結果、太平洋赤道域の中部〜東部で海面水温が平年より高くなる──これがエルニーニョ現象です。
ラニーニャ現象はその逆で、貿易風が平常時より強まることでインドネシア近海に暖水がより厚く蓄積し、南米沖の海面水温が下がります。
地球温暖化がエルニーニョの「破壊力」を増幅させる
エルニーニョ現象そのものと地球温暖化の関連性(エルニーニョの頻発化・強大化の有無)については、現在も研究途上にあります。
気象庁によると、地球温暖化でエルニーニョ現象が増えるのか、より強くなるのかについては、現在も研究が続いており、まだ結論は出ていません。
WMO(世界気象機関)も2026年6月の発表で「気候変動がエルニーニョの頻度や強度を増やすという証拠はない」と述べており、「エルニーニョの発生増加=温暖化の影響」という単純な図式は科学的に成立していません。
しかし、地球温暖化によって気温の「底上げ」が起きていることは確実であるため、エルニーニョが重なった年には異常気象の影響がより深刻になるリスクが高まっています。
WMOは「暖かくなった海洋と大気がより多くのエネルギーと水分を熱波や豪雨などの極端な気象現象に供給するため、エルニーニョに伴う影響が増幅される」と説明。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書も「地球温暖化が進むとエルニーニョに伴う極端な降水が激しくなる可能性が非常に高い」と警告しています。
エルニーニョ×温暖化が引き起こす具体的な被害
エルニーニョと温暖化が重なることで、どのような被害が起きているのでしょうか。
2023〜2024年のエルニーニョは観測史上5本の指に入るほどの強さとなり、2024年に世界各地で記録的な暑さとなった原因の一つだとWMOは報告しています。
エルニーニョが発生した年のアマゾン川流域では、降雨量の減少に地球温暖化に伴う高温が重なって深刻な干ばつに見舞われ、2023年には川の水位が著しく低下して船による物資輸送が困難になりました。
また、2015〜2016年に発生したエルニーニョでは、北太平洋中部で記録的なハリケーンシーズンとなり、エチオピアでは大規模な干ばつ、プエルトリコでは深刻な水不足がそれぞれ発生したことをNOAA(米国海洋大気局)が報告しています。
干ばつが深刻化した地域では農作物の収量が落ち込み、食料価格の上昇につながります。
さらに乾燥した植生が積み重なることで森林火災のリスクが急増するのです。
大規模な森林火災は大量のCO₂を大気中に放出し、それがさらに温暖化を加速させる──という悪循環も生まれます。
日本への影響──「冷夏・暖冬」と近年の変化
気象庁の調査によれば、エルニーニョ現象が発生すると日本では、夏は太平洋高気圧の張り出しが弱まって気温が低くなりやすく、日照時間が少なくなる傾向があります。
冬は西高東低の気圧配置が弱まり、気温が高くなる(暖冬になる)傾向です。
一方、ラニーニャ現象の年は逆の傾向が現れます。
夏は太平洋高気圧が北に張り出しやすくなって猛暑になりやすく、冬は西高東低が強まって寒冬になりやすい傾向です。
ただし近年は、地球温暖化によってもともとの気温が高くなっているため、エルニーニョ現象が起きた年でも、記録的な暑さになることが増えています。
過去の統計的な傾向が単純には当てはまらなくなっているのが現状です。
まとめ:「自然現象」は変えられなくても、「温暖化」は変えられる
エルニーニョ現象もラニーニャ現象も、私たち人間には制御できない自然現象であり、その発生は止められません。
しかし、これらの自然現象が人の暮らしに与えるダメージを深刻化させているのは、地球温暖化による気温の底上げです。
つまり、温室効果ガスの排出を減らし、温暖化の進行を抑えることが、エルニーニョによる被害を最小化するための根本的な対策となります。
日常生活でのエネルギー節約、再生可能エネルギーへの移行支持、食生活の見直しといった一つひとつの行動が、この悪循環を少しずつ断ち切っていきます。
「エルニーニョ=環境問題」という誤解から一歩進めて、「温暖化が重なることでエルニーニョは破壊的になる」という正確な理解を持つこと。
それが、私たちが今できる最初のアクションかもしれません。

