近年、世界で広がりを見せている「環境芸術」。
その芸術作品に触れることで、地球環境について考えるきっかけを生み出している作品が多くありますが、具体的な定義やその歴史を知らない人も少なくないでしょう。
そこでこの記事では、「環境芸術」について具体的な例とともに見てみたいと思います。
目次
環境芸術とは何か
コトバンクに書かれている、環境芸術の定義は以下の通りです。
環境とのかかわりにおいて展開される芸術作品あるいは表現活動
コトバンク[環境芸術]
環境芸術は、大きく「芸術の環境化」と「環境の芸術化」の2ジャンルに分けられます。 環境省が定めている定義は以下の通りです。
芸術の環境化
人間と環境の間に関係を生み出すために、その関係やほかの条件を配慮してつくられた芸術
環境の芸術化
もともと芸術とは無縁である種々の環境を芸術たらしめるもの
環境芸術は、環境アートあるいはエンバイロンメンタル・アート(Environmental art)と呼ばれており、近年では日本はもちろん世界中で多くの環境芸術が見られるようになりました。
環境芸術にはどんなものがある?
近年注目されている環境芸術にはどのようなものがあるのでしょうか。
ここではいくつか事例をあげてみていきましょう。
アイス・ ウォッチ (Ice Watch)
アイスランドのアーティストであるオラファー・エリアソン氏と、グリーンランドの地質学者であるミニック・ロージング氏による作品『アイス・ ウォッチ (Ice Watch)』。
グリーンランドのフィヨルドから持ち込まれた氷をロンドンのテート・モダン美術館前に設置したこのアートは、徐々に溶けていく氷によって、地球の気候変動を人々に体感してもらうことを目的としています。
目に見えない温暖化という現象を実際に目の前で体感することに、この作品の意義はあります。
グリーンランドの氷床は毎秒10,000個の氷が解けているとされています。
海にある氷には「海水が凍ったもの」と「ランドアイス」の2種類があります。
海水が凍った氷は、季節によって氷になったり水となったりしているため、海面上昇には影響を及ぼしませんが、ランドアイス(陸氷)は何千年ものあいだ凍っていたため、地球温暖化によってランドアイスが溶けてしまうと海面上昇につながってしまいます。
『アイス・ウォッチ(Ice Watch)』を見た人々は、こういった地球の問題を知るきっかけにもなるのです。
モエレ沼公園
北海道札幌市にあるモエレ沼公園も、環境芸術の事例です。
もともとごみ処理場だった場所を公園として再生したこの場所は、世界的な彫刻家であるイサム・ノグチ氏によって基本設計がなされました。
札幌市の「環状グリーンベルト構想」の拠点として計画されたこのモエレ沼公園は、美しい公園であり、渡り鳥など自然と触れ合える場所でもあり、さらには周辺地区を洪水から守る一時雨水貯留地でもあります。また、園内にあるガラスのピラミッドでは、雪冷房システムや太陽熱を利用した暖房システムが取り入れられるなど、環境との調和・活用が多く実現されています。
川はどこへいった / 磯辺行久
新潟県の越後妻有で開催されている「大地の芸術祭」で、磯辺行久氏が発表した作品『川はどこへいった』(2000、2018年)。
この作品は、信濃川のかつての川筋をおよそ600本の黄色い旗で表現したもので、その長さは3.5kmになります。ダム建設や護岸工事によって大きく変化している信濃川の現状や、開発と自然の痕跡を見ることができ、自然との共存について深く考えさせられる作品となっています。
また、この作品が展示された「大地の芸術祭」は2000年の開催以降、2023年現在まで開催されており、訪れた人たちへ環境と触れるきっかけを作ったり、環境問題への問題提起をしたりするような展示・イベントなどが行われています。
環境について、見て、触れて、考えてみよう
地球温暖化などの環境問題は、直接目にできないため、実感しにくいものかもしれません。
また、データなどを見ても「自分が何かできるのか?意味はあるのか?」と考えてしまい、どうしようもない問題であると、考えること自体を放棄してしまうこともあるでしょう。
しかし、環境芸術は、芸術作品を通して、環境問題や自然の素晴らしさを目に見える・直接触れるものとして考えるきっかけを与えてくれるでしょう。
人間の営みのために、自然に手を加えることをゼロにすることは難しいかもしれません。
しかし、共存する方法を考えたとき、まずは足元にある問題・課題から1つずつ取り組んでいくことができることに少しでも早く気づきを与えてくれるものの1つが、環境芸術なのです。
駅前や商業施設など、あなたの身近なところにある芸術作品も、もしかすると自然や環境についてのメッセージをあなたに届けようとしているのかもしれませんね。