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東京湾に増えつつあるサンゴや海の生き物たち
近年、東京湾にこれまで生息していなかったサンゴや海の生き物が増えてきています。
代表的な生き物が、エンタクミドリイシと呼ばれるサンゴです。
テーブルのような形をしたサンゴで、主に九州といった暖かい地域に生息しています。
現在の東京湾では、一般的に南の地域に生息しているはずのサンゴが増えているのです。
サンゴの専門家によると、エンタクミドリイシは最も寒い月の平均水温が14°C下回ると生息できないそうです。
つまり、現在の東京湾の平均水温は14°Cを上回っており、海水温に長期的な変化が起きていることを示しています。
専門家のシミュレーションによると、2035年までに東京湾では、海藻が消えてサンゴに置き換わる可能性が高いといわれています。
また、東京湾では、サンゴだけではなくイソギンチャクに隠れるクマノミの姿も確認されているようです。
海水温上昇で消えた、東京湾の生き物たち
東京湾の海水温上昇に伴いサンゴやクマノミが増える一方で、もともと東京湾に生息していた生き物たちが減ってきています。
減少している主な生き物は、昆布や海苔、イワシ、キンメダイなどです。
かつて、千葉県の勝山漁港は、煮干し用のイワシやキンメダイなど高級魚の水揚げで大変賑わっていました。
しかし、近年東京湾の海水温上昇により獲れる魚が変化してきています。
水揚げされる魚の種類が変化したことによって廃業する漁師も増えているのです。
また、海水温の上昇はわかめの養殖にも影響をおよぼしています。
鋸南町の海でわかめの養殖をしている方によると、ここ数年でわかめの収穫が激減しており、ほぼ全滅の年もあったそうです。
養殖のわかめに限らず、カジメやアマモなどの藻場も減少しています。
海水温の上昇と藻場の減少により、海藻を食べるアイゴをはじめとした魚が冬でも活動的になり、さらに海藻が減ってしまっているのです。
サンゴが増えていると聞くと南の海のようにきれいになっていくイメージを持ちますが、実際には今ある生態系を壊してしまい、漁業の営みにも大きな影響をおよぼしてしまいます。
東京湾の海水温はどのくらい上昇したのか
東京湾の水温は過去から現在にかけて大きく変動しており、約40年間で上昇傾向にあります。
季節的な変動をみてみると、秋と冬の水温が上昇しており、秋の水温降下が重要となる海苔の養殖に大きな影響を与えていると考えられるでしょう。
1967年以降の水温変動を追ってみると、表層の水温は0.6~1.3℃、底層の水温は0.6~1.1℃上昇しています。
水温上昇の原因は、外海域からの熱供給が増加している影響であると予想されています。
東京湾だけじゃない、上昇する日本近海の海水温
今回、東京湾を取り上げて海水温の上昇による生き物たちへの影響を解説しましたが、実は海水温が上昇しているのは、東京湾に限った話ではありません。
2023年までのおよそ100年間の中で、日本近海の海域平均海面水温上昇率は、1.28℃です。
世界全体の平均した海水温の上昇率は0.61℃のため、かなり大きな上昇率であるとわかります。
日本近海の海面水温は、長期的な上昇だけではなく、10年規模でも変動がみられます。
10年規模での変動は、特に東シナ海北部、黄海、日本海南西部、日本海中部を中心とした広い海域の冬季に発生しており、冬の季節風の強さが関係していると考えられているようです。
そのほかにも、北海道周辺の海域を中心に、2000年ごろから夏の海面水温の上昇が目立つようになってきました。
海面水温は、10年規模を含むさまざまな間隔の変動と、地球温暖化などの影響が重なり合うことで変化していると考えられており、地球温暖化の進行を予測するためには、海水温の変動を把握することが大切といえます。
地球温暖化が海や私たちの暮らしに与える影響は大きい
地球温暖化による海水温の上昇は、生態系の変化だけではなく、漁獲量にも大きな影響を与えています。
生態系の変化により獲れる魚の種類が変化し、漁業や私たちの食生活にも影響をおよぼしているのです。
地球温暖化による環境の変化や影響が、身近な問題として迫りつつ今。
将来の東京湾の生態系を守るためには、私たち一人ひとりが環境に対する意識を変え、そして行動を起こすことが大切なのです。