海洋生態系の豊かさを支え、自然災害からも沿岸地域を守ってくれる珊瑚。
その「海の守り手」ともいえる役割は、温暖化や汚染などの影響で今、危機にさらされています。
こうした中、温暖化に強い珊瑚の養殖が期待されています。
目次
海を守る珊瑚の役割
珊瑚礁は、海の豊かな生態系を支える大切な役割を担っています。
海は地球の表面の約70%を占める広大な存在ですが、その中でも珊瑚礁はたった1%と大変限られた範囲にしか存在しません。
それにもかかわらず、珊瑚礁には全海洋生物のうち約25%が依存しており、多くの生物が珊瑚礁を「住処」として利用しています。
珊瑚礁の複雑な地形が、多様な生物にとって安息の場を提供し、多くの生物が集まり、豊かな生態系を築きあげているのです。
また、珊瑚は光合成によって二酸化炭素を吸収し、温暖化の抑制に役立っています。
さらに珊瑚が放出する粘液は、海中の有機物を沈殿させることで水質を浄化する効果があり、海の環境維持にも貢献しているのです。
珊瑚礁は海洋生態系の支えとなり、地球温暖化の抑制や水質改善においても大切な役割を果たしています。
珊瑚礁が海の生態系や私たちの生活へ与える影響
珊瑚礁は、私たちの生活や経済活動を支える大切な存在です。
珊瑚礁が育む魚や貝などの海洋資源は、漁業や観光業の基盤となっており、地域経済や人々の暮らしを支えています。
また、珊瑚礁は天然の防波堤としても機能しており、台風や高潮などの自然災害から沿岸地域を守っています。
もし珊瑚礁が失われてしまったら、その影響は大きなものになるでしょう。
まず、珊瑚に依存して生きる海洋生物の25%が生息地を失い、海洋生態系全体に大打撃がおよびます。
次に、珊瑚が吸収していた二酸化炭素が海水中に放出されることで、海水温が上昇し、地球温暖化が加速します。
南極大陸の厚い氷が溶け出し、海面が最大60メートル上昇するリスクもあるのです。
海面上昇は、海岸線の消失や沿岸都市の浸水を引き起こし、多くの人々の生活や産業に深刻な影響をおよぼすでしょう。
温暖化が進むと、気候変動の影響は陸上にも広がり、私たちの生活に欠かせない生態系が脅かされます。
さらに、珊瑚の死滅は水質浄化機能の低下も招き、海水の汚染が進行するおそれもあるでしょう。
こうした影響は、私たちが豊かな自然を享受し、安心して暮らす環境を守るためにも、見逃すことのできない問題です。
珊瑚礁を守ることが、海洋生態系を守り、ひいては地球全体の未来を支えることにつながるのです。
世界で初めて成功した熱に強い珊瑚の養殖
気候変動による海水温の上昇が珊瑚に大きな影響を与える中、英ニューカッスル大学(NCL)が画期的な方法で「熱に強い珊瑚」の養殖に世界で初めて成功しました。
新たな研究成果により、珊瑚にとって厳しい環境下でも生き延びられる「熱耐性を高めた形質」を持つ個体を選択的に繁殖させる方法が生まれました。
選択的繁殖の手法は、古くから農業や動物の育種に用いられてきた技術であり、より強靭な作物や家畜を育てるために用いられてきています。
NCLの研究では、熱に強い特性を持つ珊瑚の親を厳選し、世代を追うごとに耐熱性を高める繁殖を行うことで、次世代の珊瑚がより高温に耐えられるよう改良されています。
地球温暖化が進む中でも、珊瑚が生き延びられる環境作りに大きな貢献が期待できるでしょう。
耐熱性のある珊瑚養殖の実用化と未来への期待
今回の研究は、人為的な選択的繁殖を通じて珊瑚に熱耐性を持たせられることを示す画期的な成果となりました。
しかし、選択的繁殖による熱耐性向上が実現可能とはいえ、万能な解決策ではありません。
研究者たちは、温暖化のスピードが今後さらに加速することを見込んでおり、現在の耐熱性向上のレベルだけでは、将来の頻繁な海洋熱波に対抗するには不十分であると警告しています。
珊瑚の熱耐性効果を最大限に発揮するためには、地球全体での温室効果ガス排出量の大幅な削減が欠かせないとされています。
珊瑚礁を保護するためには、養殖技術だけでなく、温暖化の根本的な原因にも取り組む必要があるのです。
耐熱性のある珊瑚の実用化が進むことで、環境に対する意識の向上とともに、地球規模での温暖化対策の促進も期待できるでしょう。
珊瑚を保護し温暖化に立ち向かうために私たちができること
珊瑚礁の保護と温暖化への対策は、私たちの海洋環境の持続可能性を支える重要な取り組みです。
熱耐性のある珊瑚の養殖は希望の光ですが、環境全体の改善には温室効果ガスの削減も欠かせません。
私たちが今すべきことは、珊瑚礁を守る活動に参加し、地球環境の保護意識を高めることです。
未来の海を守るため、一人ひとりの行動が求められています。