大気汚染が人体に及ぼす影響とは|改善に向けた4つの取り組み

現在、地球温暖化や海洋プラスチックごみと並び、深刻な環境問題のひとつとされている「大気汚染」。

近年、感染が拡大している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による行動制限の影響により、世界各国では大幅な改善が見られたとの報告があります。

ただし行動制限の解除によって、大気汚染レベルが元の水準へとリバウンドする可能性が、現在、懸念されています。

この記事では、大気汚染の概要から私たちに与える影響、そして大気汚染の改善に向けた各国政府の取り組みについて取り上げます。

大気汚染とは

18世紀後半から19世紀にかけて起こった産業革命以降、私たちの生活には自動車や工場など、さまざま産業で化石燃料(石油・石炭・天然ガス)が使用されるようになりました。

しかしその一方で、化石燃料の燃焼によって排出されたガスにより大気中の空気は汚染され、自然環境や私たちの人体に悪影響を及ぼす事態となっています。

日本においては、アジア諸国の工場や自動車から発生した大気汚染物質が風で運ばれ、日本の大気を汚染する「越境汚染」という問題が発生しています。

大気汚染物質の種類と人体への影響

上記でも述べたように、大気汚染の主な原因のひとつには、化石燃料の燃焼によって発生した排出ガスがあるとしました。

その他に大気汚染の要因となる物質に、建設などで発生する「粉塵」などがあるとされています。

ここではそれらの大気汚染物質を細かく分類し、それらが人体へ及ぼす悪影響について解説します。

1.一酸化炭素

石油や石炭などの化石燃料が燃焼する際に、酸素の供給が不十分な場合は不完全燃焼となり、一酸化炭素が発生します。

大気中の一酸化炭素の主たる人的要因は自動車とされており、この一酸化炭素を含んだ空気を吸うと、血液中に含まれるヘモグロビンと一酸化炭素が結合し、一酸化炭素中毒を引き起こします。

ヘモグロビンには血液中の酸素を循環させる役割があるため、一酸化炭素と結合することで体内の細胞に酸素を供給できず、最悪の場合、死に至ることもあります。

2.炭素水素

炭化水素は不完全燃焼の炭素と水素からなる化合物で、主に工場・自動車で重油やガソリンなど燃焼することで排出され、有害物質である「光化学スモッグ」を発生させる物質とされています。

光化学スモッグは、大気中に排出された炭化水素と窒素酸化物が、太陽の紫外線によって光化学ダイオキシンに変質し発生する物質で、目の不調や呼吸障害などを引き起こす有害物質とされています。

3.窒素酸化物

窒素酸化物は、工場や自動車、家庭用コンロなどで化石燃料を燃焼させる際に、燃料に含まれている窒素が大気中の酸素と結合することで生成され、燃焼温度に比例してその発生量も増幅します。

前項の炭化水素と同様に、大気中で太陽の紫外線を浴びることで光化学ダイオキシンに変質し、光化学スモッグを発生させる要因となります。

4.微小粒子状物質(PM2.5)

自動車や工場などから発生する「すす」といった一次粒子が、大気中に浮遊する過程で粒径 2.5μm(1μm は 1/1000mm)となり、微小粒子状物質(以下、PM2.5)と呼ばれる物質になります。

このPM2.5は非常に小さい物質のため、吸い込むと灰の奥深くまで入り込み、喘息や気管支炎等の呼吸器系の疾患や、肺がんのリスクを高めるなどの影響が懸念されています。

5.粉じん

粉じんは主に、建設現場などでの建材の破砕や研磨、解体によって発生し、PM2.5の要因である一次粒子とされています。

粉じんは吸い込むことによって、呼吸困難や気管支炎、肺がん、気胸などの合併症を引き起こす「じん肺」になる危険性が高めます。

このじん肺には根本的な治療法がなく、一度発症すると正常な肺には戻りません。また粉じんがない環境に移動したとしても、じん肺の症状は進行します。

大気汚染による経済損失と世界の現状

スイス企業のIQエアは、大気汚染が原因で生じた2020年の世界の経済損失はおよそ2.9兆ドルにのぼると公表しました。

同社が調査した、2021年の世界の大気汚染状況をまとめた報告書によると、世界保健機関(WHO)が定めている大気汚染状況の基準に達している国は一つもなかったとされています。

大気汚染レベルがWHOの設けている基準の10倍以上となる国には、インド・パキスタン・バングラデシュなどの南アジア諸国があり、これらの国では野焼きが多いことや、石炭燃料が多く使用されていることが原因として挙げられています。

日本の大気汚染の現状と課題

日本では1960年代の高度経済成長によって、全国各地の工業地帯では、大量の石炭や石油が燃やされ、それに伴い大量の有害ガスが排出されました。

それにより日本の大気は急激に汚染され、深刻な公害問題が発生したことによって、政府は1968年に「大気汚染防止法」を制定。

同法は、その後も状況に応じて改正を繰り返し、現在ではそのような法律が功を奏して、規制の厳格な北欧諸国やオーストラリア、カナダと並ぶ水準にまで、大気汚染レベルが改善されています。

しかし現状では、大気汚染物質の主な原因とされる化石燃料を使用した「火力発電」が国内エネルギー供給の8割近くを占めており、化石燃料を使用しない電気自動車の普及においても、欧州や中国に後れを取っている状況です。

今後はこの火力発電からの脱却に向けて、再生可能エネルギーに関わるインフラ整備や普及に向けた取り組みが急務となっています。

大気汚染問題の解決に向けた日本の取り組み

日本では更なる大気汚染の改善に向けて、さまざまな対策が行われています。

具体的な対策内容は、下図の通りです。

  • 公共交通機関の利用促進
  • 電気自動車(EV)の普及促進
  • 物流の効率化
  • 交差点・踏切の整備やETCの導入促進

2021年には電気自動車の補助金が、以前の最大40万円から倍以上の金額となる最大85万円まで引き上げられ、積極的な推進が行われています。

今後は充電インフラの導入が進み、電気自動車を保有しているユーザーが生活しやすい環境が整備されることが期待されます。

地球の未来を考えた日々の実践が大きな改善に繋がる

私たち個人の身近な対策例としても、公共交通機関の積極的な利用や省エネの実践などが、大気汚染の改善に寄与するでしょう。

環境問題の現状を認識し、私たち一人ひとりが協力してサステナブルの実現に向けた取り組みを行うことが求められます。

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