地球温暖化とともに進行する 海洋酸性化 は、私たちが想像する以上に海の世界へ大きな負荷を与えています。
大気中の CO₂ が海へ吸収されることで海水の性質が変わり、サンゴや貝類、魚類、そして海の食物連鎖全体にまで影響が広がりつつあります。
すでに世界各地で深刻な変化が観測されており、日本の海でも異変が進行中です。
目次
海洋酸性化とは?海で起きている異変
海洋酸性化とは、大気中の二酸化炭素が大量に海水に溶け込むことで、もともとアルカリ性である海の水質が酸性に近づく現象です。
本来、海水は弱アルカリ性でpH8.1程度を保っていますが、近年この値が徐々に低下しています。
ハワイでの長期観測では、30年間でpHが0.06低下したことが確認されており、世界規模で海洋環境の変化が進行しています。
注意すべきは、「酸性化」といっても海が酸性になるわけではなく、弱アルカリ性が酸性方向に振れることで、海洋生物が棲みにくい環境になっていくということです。
海洋酸性化が進む原因 – CO2排出との関係
海洋酸性化の主な原因は、人間の生産活動に伴う二酸化炭素の排出です。
18世紀の産業革命以降、石炭や石油などの化石燃料を燃やしてエネルギーを得るようになり、大気中の二酸化炭素が急速に増加しました。
2022年度に世界全体で排出された二酸化炭素の量は約368億トンと過去最高水準に達しています。
産業活動で排出される二酸化炭素の実に4分の1を海洋が吸収しており、これは森林の二酸化炭素吸収量の10倍近い数値です。
海が二酸化炭素を吸収してくれるおかげで地球全体のバランスが保たれてきましたが、排出量が増えすぎて処理しきれなくなっているのが現状です。
海の生き物への深刻な影響
海では今、気候変動によって二酸化炭素が増え続けた結果、海水の性質そのものが変わりつつあります。
特に「海洋酸性化」と呼ばれる現象は、小さなプランクトンから大きな海獣まで、あらゆる生き物の暮らしに影響を及ぼす深刻な問題として注目されています。
貝類やサンゴへの影響
海洋酸性化を測る重要な指標として、pH(水素イオン指数)とΩ(オメガ:炭酸カルシウム飽和度)があります。
海に溶けた二酸化炭素は水と反応して水素イオンを増やし、同時に炭酸イオンを減少させます。
このような環境の変化によって、炭酸カルシウムで殻を形成するサンゴやカキ・ホタテなどの貝類、さらにエビやカニといった甲殻類は、成長や繁殖が難しくなり、寿命にも悪影響が及ぶ可能性が指摘されているのです。
特に、炭酸カルシウムの飽和度Ωが1より小さくなると、生物がつくった殻は海水に溶けてしまいます。
実際に、貝類の幼生は海洋酸性化の影響で成長が早期に阻害されやすいことが確認されています。
食物連鎖全体への波及効果
最も懸念されるのは、生態系の最下層に位置づけられる海洋プランクトンや微生物が繁殖しにくくなることです。
これらを捕食して成長する魚類の稚魚や幼魚に影響が及び、魚類が成長しにくくなれば、海の生態系の上部にいる海獣たちも生活できなくなります。
海洋酸性化は、海の生態系全体に深刻な影響を与える可能性があり、地球上に存在するとされる3,000万種以上の生物の相互関係や、多様な生物種の存続さえも脅かすおそれがあるのです。
世界と日本で起きている実例
アメリカ西海岸のワシントン州やオレゴン州にある養殖施設では、海洋酸性化が進んだ影響で、2005年から2009年の間にカキの幼生が大規模に死滅する事態が発生しました。
また、大西洋やベーリング海では、オキアミやカイアシ類といった甲殻類を食べて成長するサーモンやトラウトなどの漁獲量が減少し、サイズも小さくなっています。
日本の津軽海峡では、2014年以降、年0.0037というペースでpHが低下しており、外洋域よりも酸性化が速く進んでいることが明らかになっています。
さらに、ホタテの養殖が盛んな陸奥湾でも酸性化の傾向が確認されており、今後の漁業への影響が懸念されているのです。
海洋酸性化を止めるために私たちにできること – 海を守るアクション
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書によると、このまま二酸化炭素の排出量を抑制しなければ、21世紀末までに海洋表面の平均pHが最大0.3低下すると予測されています。
海洋酸性化を食い止めるためには、二酸化炭素排出量を削減することが最も重要です。
私たち一人ひとりができることとして、以下のアクションが挙げられます。
・省エネルギーの実践:不要な電気を消す、エアコンの設定温度を見直すなど日常的な省エネ
・再生可能エネルギーの選択:太陽光発電など環境に配慮したエネルギーの利用
・移動手段の見直し:公共交通機関の利用、徒歩や自転車での移動
・食品ロスの削減:必要な量だけ購入し、食べ残しを減らす
・環境に配慮した製品の選択:持続可能な方法で生産された商品を選ぶ
<h2>未来の海を守るために——海洋酸性化への理解と行動を
海洋酸性化は、私たちの日常生活から排出される二酸化炭素が原因で進行している深刻な環境問題です。
貝類やサンゴといった海の生き物への直接的な影響にとどまらず、食物連鎖を通じて海洋生態系全体、そして私たち人間の生活や経済活動にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
世界各地で実際に被害が報告されており、日本の海でも酸性化が進行していることが確認されています。
未来の豊かな海を守るためには、一人ひとりが環境に配慮した行動を心がけ、二酸化炭素排出量の削減に取り組むことが重要です。

