藻場は「海のゆりかご」と呼ばれ、魚の産卵・育成場や水質浄化の場として、海の生態系と私たちの暮らしを支える重要な存在です。
しかし近年、温暖化や沿岸開発、藻食動物の増加などにより、藻場は全国的に減少し、磯焼けという「海の砂漠化」が進んでいます。
目次
藻場とは?「海のゆりかご」が果たす重要な役割
藻場とは、海中に広がる海藻や海草の群生地のことを指します。
大型の海藻草類が生育している場所で、海藻の種類によってアマモ場、アラメ・カジメ場、ガラモ場などと呼び分けられています。
魚の餌場や産卵場、稚魚の育成場となり、良好な漁場としても欠かせない存在です。
藻場は「海のゆりかご」とも呼ばれ、多様な役割を担っています。
水質浄化の面では、藻場は海水中の窒素やリンなどの栄養塩を取り込み、富栄養化の進行を抑える役割を果たします。
生物多様性の維持では、幼魚や小型の海洋生物が捕食者から身を守る隠れ場所となり、多様な生物が共存できる環境を創出しているのです。
さらに重要なのが、二酸化炭素の吸収機能です。
藻場は光合成を通じて大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素を固定化します。
この仕組みは「ブルーカーボン」と呼ばれ、地球温暖化を抑える自然の炭素吸収源として注目されています。
その他にも、水産資源の育成による経済効果、波の力を弱めることによる海岸線の保護、環境教育やレクリエーションの場としての機能など、藻場は私たちの暮らしと環境を支える多面的な価値を持っているのです。
深刻化する藻場の減少 – 磯焼けという海の砂漠化
しかし近年、この重要な藻場が急速に失われつつあります。
1990年代には日本沿岸の藻場はおよそ20万ヘクタール存在していましたが、わずか13年間で約6,400ヘクタールも減少しました。
そのうち、磯焼けによって失われた面積はおよそ1,016ヘクタールに達します。
磯焼けとは、海藻の群生が衰え、ほとんど植物が生育しない「貧弱な植生状態」になる現象です。
自然の季節変動や長期的な変化を超えて発生し、一度磯焼けが起こると藻場の回復には長い年月を要します。
近年では、ほぼすべての都道府県で磯焼けが確認されており、特に静岡県御前崎では約8,000ヘクタールもの藻場が失われたと伝えられています。
地球温暖化による海水温の上昇や食害生物の増加により、藻場の衰退・消失が全国各地で進行し、深刻な問題となっているのです。
全国で進む藻場再生の取り組み
この危機的な状況に対し、全国各地で藻場再生に向けた様々な取り組みが進められています。
漁業者による地道な保全活動
全国約290の漁協で、漁業者による藻場の保全活動が行われています。
施肥による栄養供給、雑海藻の除去、母藻の供給、種苗の生産・供給、アマモの種子採取と播種、ウニなど食害生物の移殖や駆除、食害動物の防除、食圧吸収のための海藻供給、食害動物の積極的な捕獲と活用など、地域の特性に応じた多様な手法が実践されています。
大分県名護屋地区では、潜水漁業者が自主的に「名護屋地区磯焼け対策部会」を発足させ、国や県の研究機関、専門家からの協力を得ながら本格的な磯焼け対策を実施。
ウニの除去、母藻の設置、魚による食害対策などを組み合わせ、消失していた藻場の回復に成功しました。
自治体と企業の協働プロジェクト
行政と企業、市民が連携した取り組みも各地で展開されています。
東京湾では「東京湾UMIプロジェクト」が立ち上げられ、国土交通省が事務局となって企業によるアマモ場造成を推進。
複数の企業がNPO法人からの技術支援を受けながらアマモ場の再生活動に参加し、約半年で移植したアマモが護岸から目視で確認できるほどに生育しています。
横浜市では「横浜ブルーカーボン事業」として、行政と企業が協働し、ブルーカーボンに着目した新たな観点から藻場を活用した環境改善を進めています。
ワカメの植付けや収穫イベントを通じた環境教育も実施され、参加希望者やリピーターが増加するなど、取り組みが定着してきているのです。
博多湾エコパークゾーンでは、福岡市港湾空港局と市民団体が連携し、地元小学校と協働したアマモ場づくりや、市民参加によるアオサ清掃活動などが継続的に実施されています。
奄美大島の瀬戸内町では、漁業者と自治体、ダイバーが協力して藻場再生に取り組んでいます。
囲い網や仕切り網を設置して魚による食害を防ぎ、海藻が順調に成長することを確認しました。
母藻となる藻場を育て、胞子が着床しやすいよう投石などで水中環境を整え、多くのエリアに移植する計画が進められています。
藻場再生がもたらす未来 – ブルーカーボンとしての価値
藻場は「海のゆりかご」として、生物多様性の維持、水質浄化、二酸化炭素の吸収、水産資源の育成など、多面的な機能を持つ重要な海洋生態系です。
しかし、温暖化、食害生物の増加、沿岸開発などにより、全国で深刻な減少が進んでいます。
この危機に対し、漁業者による地道な保全活動、自治体と企業の協働プロジェクト、最先端技術の開発など、多様なアプローチで藻場再生が進められています。
これらの取り組みは、環境保全だけでなく、ブルーカーボンとしての経済的価値も生み出しつつあるのです。
私たちにできることは、こうした取り組みを知り、支援すること、そして日常生活でCO2排出を減らすことで海水温上昇を抑える努力を続けること。
一人ひとりの行動が、豊かな海を未来につなぐ力となるのです。

