見て感じる、環境芸術(エコロジカル・アート)

気候変動、プラスチック汚染、生物多様性の喪失——現代社会が直面する環境問題は、データや統計だけでは伝わりきらない深刻さを抱えています。

そんななか、感性に訴えかける「環境芸術(エコロジカル・アート)」が注目を集めています。

環境芸術は、視覚的・体験的な方法で環境問題を提示し、私たちの意識変革を促す役割を果たしているのです。

環境芸術(エコロジカル・アート)とは

環境芸術は1960年代、公害問題が深刻化するなかで欧米を中心に発展しました。

「エコロジー(ecology)」という言葉は、ギリシャ語で「家・住まい」を意味する oikos と、「学問・研究」を表す logos を組み合わせたもので、ドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルが生み出しました。

本来は、生態学を指す言葉でした。

1960年代以降、急速な環境破壊や公害を受けて、環境保全や環境保護の意味として使われるようになり、アートにおいても「環境、自然を使った」というニュアンスで用いられるようになりました。

環境芸術の表現方法は極めて多彩です。

絵画や彫刻といった伝統的な手法だけでなく、インスタレーション、パフォーマンス、映像作品など、様々な形態で展開されています。

使用される素材も、自然環境のロケーションそのもの、音、光、日常的な物体など多岐にわたります。

初期の環境芸術が環境破壊への批判を主としていたのに対し、現代の環境芸術では「いかに自然や環境と私たちは共存するか」をテーマにした作品が多く見られます。

アートを通じて、政治、社会、経済とも関係するエコロジーについて考えさせるという側面が特徴です。

海外の先駆的な環境芸術作品

環境芸術は、自然環境や生態系、環境問題そのものを主題・素材・制作プロセスに取り込み、鑑賞者に新たな視点や気づきを与える表現として発展してきました。

とりわけ海外では、1970年代以降、自然との共生や環境破壊への批評を強く意識した先駆的な試みが数多く生まれています。

ニルス・ウド

ドイツで活躍するニルス・ウドは、ランド・アートの代表的な芸術家として日本でも人気があります。

岩、土、木などの自然素材を用いて、自然そのものから着想を得て作品を制作しています。

光や風、水や花びら、木の葉など、自然がもつ本質的な美しさや生命のきらめきを形にした彼の作品は、自然の魅力やその大切さをあらためて気づかせてくれます。

ジョン・サブロー

アメリカで活躍するアーティスト、ジョン・サブローは、芸術と科学を組み合わせた作品づくりに取り組んでいます。

科学者や環境保護活動家と連携し、汚染された川から有害な酸性鉱山排水を回収します。

それを顔料として加工し、美しい絵画作品へと生まれ変わらせているのです。

作品の収益は川の環境修復にも役立てられており、循環型の芸術として注目されています。

環境問題の「加害者」である汚染物質を「創造の素材」に変換する—この転換こそが、新しい環境芸術のあり方を示しています。

日本における環境芸術の展開

日本における環境芸術は、自然を「鑑賞の対象」として捉えるだけでなく、人間の暮らしや地域社会と深く結びついた実践として展開されてきました。

豊かな自然環境と災害の歴史を併せ持つ日本では、自然との距離感や関係性を問い直す表現が多く見られます。

近年は、映像表現や参加型プロジェクトなど多様な手法を通じて、人と自然の境界や共生のあり方を静かに、しかし確かに問いかける作品が生まれています。

エレナ・トゥタッチコワ

エレナ・トゥタッチコワの映像作品『I Hear, Says the Wind(聞こえる、と風はいう)』は、森の奥深さと人間世界の接点を映し出します。

少年が森の中へ分け入っていく様子を追いながら、人間が作った文明世界のロジックを外れた「人間ならざるものの領域」を感じさせる作品です。

森のなかから振り返るとき、私たちの慣れ親しんだ日常世界は整然として見えますが、外から森を見るとき、その奥は暗く不明瞭です。

この二つの世界の接点こそが、人間と自然の関係を考える重要な視点となります。

KAMEOKA FLY BAG Project

京都府亀岡市では、2030年までに使い捨てプラスチックごみゼロのまちを目指す宣言のもと、「KAMEOKA FLY BAG Project」が展開されています。

役目を終えたパラグライダーの生地をバッグへとつくり変えるプロジェクトです。

制作の様子を発信したり、ワークショップを開催したりと、さまざまな取り組みを行っています。言葉に頼るのではなく、芸術そのものを通して人々の感覚に訴えかけ、多くの市民から共感を得ています。

感じることから始まる環境保全

環境芸術は、データや統計では伝わりきらない環境問題の深刻さを、感性に訴えかける形で提示します。

溶けゆく巨大な氷、汚染された川から生まれる美しい絵画、元ゴミ処理場から生まれた芸術公園——これらの作品は、私たちに環境問題を「見て、感じる」機会を与えてくれます。

気候変動や環境問題がますます深刻になるなかで、私たちは人と自然の関わり方をあらためて考える必要に迫られているのです。

環境をテーマにした芸術が果たす役割は、今後さらに重要になっていくでしょう。

環境をテーマにした芸術作品を楽しみながら、地球のこれからについて思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。

感じることから、行動が始まります。

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