「進化」というと、何万年もかけてゆっくりと起きるものだと思っていませんか。
しかし近年、気候変動や都市化といった急激な環境変化が、動物たちの体の形や遺伝子を、人間が驚くほどの短期間で変えつつあるという研究が次々と発表されています。
スコットランドの島のヒツジ、カリブ海のハリケーンを生き延びたトカゲ、ニューヨークの都市で暮らすネズミ——今まさに起きている「リアルタイムの変化」を、3つの事例から読み解いていきます。
目次
動物たちに「今」、何が起きているのか
これまで生物の進化は、数千年〜数万年という長い時間スケールで語られてきました。
しかし、気候変動・異常気象・都市化といった急激な環境変化が、数十年という短期間で動物の体格・形態・遺伝子を変化させているという研究結果が、近年相次いで科学誌に掲載されています。
環境が変われば、その環境に合った個体だけが生き残り、子孫を残します。
これが「自然選択」の原理です。
人間の活動が急速に環境を変えている現代、自然選択のスピードも変わりつつあります。
では実際に、どんな動物が、どのように変化しているのでしょうか。
温暖化でヒツジが「小さく」なっていた——スコットランド・ハーサ島
2009年、英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)の研究チームは、スコットランド・ハーサ島に生息する野生のソーイヒツジの平均体格が、24年間で約5%小さくなっていたと「Science」誌で報告しました。
体重は1986年より平均で約3kg軽くなっていました。
通常は、大きな個体のほうが生き残りやすいため、集団は大型化すると考えられます。
しかし実際には逆に、小型化が進んでいたのです。
研究チームによると、原因は温暖化による冬の変化でした。
以前は冬が厳しく、大きな個体しか生き残れませんでしたが、冬が暖かくなると、小さな個体でも越冬しやすくなりました。
さらに、若い母親から生まれる子どもは小さくなりやすい「若い母親効果」も重なり、島全体で小型化が進んだと考えられています。
研究では、この変化は主に「進化」ではなく、環境変化に対する生態学的な応答だと結論づけられました。
ハリケーンで「足が変わる」トカゲ——カリブ海・タークス・カイコス諸島
2017年、ハーバード大学のコリン・ドニヒュー博士らは、カリブ海のタークス・カイコス諸島でアノールトカゲを調査していました。
その直後、カテゴリー5の巨大ハリケーン「イルマ」と「マリア」が島を直撃。
研究チームは嵐の後に再び島を訪れ、生き残ったトカゲを調べました。
2018年に「Nature」誌で発表された研究によると、生き残った個体には共通点がありました。
前肢が長く、後肢が短く、さらに足指の吸盤(趾パッド)が大きかったのです。
これは、強風の中でも枝にしがみつきやすい体形でした。
実験でも、趾パッドが大きい個体ほど強風に耐えられることが確認されました。
つまり、ハリケーンが「しがみつける体」を持つ個体を選び、生き残らせたのです。
さらに翌年に生まれた子どもたちにも、大きな趾パッドが見られました。
研究チームは、こうした特徴が遺伝している可能性が高いと考えています。
都市で「遺伝子が変わる」ネズミ——ニューヨーク・マンハッタン
2020年、コロンビア大学のアーベル・ハーパック氏らの研究チームは、ニューヨーク市のドブネズミの遺伝子分析を発表しました。
研究チームは市内で約400匹のネズミを捕獲し、そのうちマンハッタンの29匹の全ゲノムを解析。
中国北東部の祖先系統のネズミと比較しました。
その結果、マンハッタンのネズミでは、「CYP2D1」など食生活や行動に関わる複数の遺伝子に変化が見つかりました。
特に、植物性化合物の解毒に関わる遺伝子が変異していたことが注目されています。
研究チームは、これは「遺伝的スイープ」と呼ばれる現象だと考えています。
これは、特定の環境で有利な遺伝子が、世代を重ねるうちに集団全体へ広がっていくことです。
人間の食べ残しや加工食品が多いニューヨークの特殊な環境に適応する中で、ネズミの遺伝子も変化しつつあると考えられています。
3つの事例が示すこと——「適応できる種」と「できない種」
3つの事例に共通するのは、人間が引き起こした環境変化(温暖化・異常気象の激化・都市化)が、数十年という短期間で動物の体や遺伝子に影響を与えているという事実です。
ヒツジは温暖化した冬という新しい環境に集団として応答し、トカゲはたった一回の嵐によって「しがみつける個体だけが生き残る」という選択を受け、ネズミは都市の食環境に遺伝子レベルで適応しつつあります。
ただし、すべての生き物がこのような速さで変化に対応できるわけではありません。
変化のスピードが速すぎて適応できない種が、今この瞬間にも絶滅の危機に瀕しています。
動物たちの「姿の変化」は、環境変化の速さを私たちに伝える「生きた記録」でもあります。

