3Dプリントの技術が環境に貢献する?サンゴ礁を守る取り組みとは

世界中でサンゴ礁が危機にさらされています。

気候変動や海洋汚染によって数多くのサンゴが死滅し、海の生態系にも深刻な影響が出ています。

こうした状況を救う可能性を秘めたのが「3Dプリント技術」です。

最新の研究では、人工的にサンゴ礁を再現することで、生態系を支える“新しい海の住み家”をつくろうとする取り組みが進んでいます。

サンゴ礁を取り巻く環境危機

サンゴ礁は「海の熱帯林」と呼ばれるほど多様な生き物を育む大切な存在です。

しかし、国際自然保護連合(IUCN)の報告によれば、世界の3分の1以上のサンゴ種が絶滅の危機にあります。

サンゴが失われると、サンゴ礁をすみかにしている魚やエビ、さらにはそれらを捕食する生き物まで減少してしまいます。

その結果、海の生態系バランスが崩れ、人間の漁業資源や観光資源にも影響がおよぶでしょう。

特にツバルやモルディブのようにサンゴ礁に依存している島国では、生活基盤そのものが脅かされる可能性があるのです。

3Dプリントでつくる人工サンゴ礁とは?

近年、失われつつあるサンゴ礁を守るために、3Dプリンターを使った人工サンゴ礁づくりが進められています。

特に注目されているのが、イスラエルの主要な4つの大学(バーイラン大学、テクニオン、ハイファ大学、テルアビブ大学)が共同で進めている研究プロジェクトです。

この取り組みの大きな特徴は、地域ごとの環境に合わせたサンゴ礁を再現できるアルゴリズムにあります。

サンゴ礁は世界中に存在していますが、それぞれの環境条件は異なります。

そのため、従来の一律的な人工サンゴ礁では十分に機能しないこともありました。

研究チームは、サンゴ礁が置かれている環境と形状の関係を徹底的に調査しました。

数千枚に及ぶ水中写真や、周辺の環境DNAと呼ばれる遺伝情報を集め、そのデータをもとに「最適なサンゴ礁の形」を導き出せる仕組みを開発したのです。

実際に、イスラエル南部のエイラート湾に3Dプリントされた人工サンゴ礁が設置されました。

このサンゴ礁には、生物由来の特殊なセラミック素材が使われており、水中で多孔質(細かい穴がたくさんある状態)になって、サンゴや小さな海洋生物が棲みやすい環境を提供します。

さらに3Dプリンターならではの強みは、自然のサンゴ礁のような複雑な構造を再現できる点です。

現在は、この人工サンゴ礁が実際にどのような効果を発揮するのか、検証が続けられています。

そして得られたデータはアルゴリズムに再度組み込まれ、より環境に適したサンゴ礁づくりへと進化していく予定です。

サウジアラビアの「世界最大規模」プロジェクト

サウジアラビアは、海洋環境の回復と持続可能性に向けた先進的な取り組みを進めています。

その一つが「世界最大規模」とされる3Dプリントを活用したサンゴ礁再生プロジェクトです。

2025年の大阪・関西万博に合わせて紹介されたこの取り組みでは、最新の技術を使ってサンゴ礁の骨格を人工的に再現し、海の生態系を守る挑戦が始まっています。

プロジェクトの中心となるのは、サウジアラビアの名門研究機関「KAUST(キング・アブドラ科学技術大学)」の研究チームです。

彼らはAIと精密な3Dバイオプリント技術を組み合わせ、サンゴが育ちやすい人工基盤を開発しています。

この基盤は水中で自然のサンゴ礁のような構造を作り出し、魚や海洋生物の住処を提供できます。

研究を牽引しているのは、KAUST研究員であり、サウジアラビア食品医薬品局の科学者でもあるハミド・アルバラウィ博士です。

博士はサンゴ礁の再生に適した素材の研究を進め、持続可能な海洋環境のための実用化を目指しています。

その功績は国際的にも評価され、2023年には「MITテクノロジーレビュー」によって中東・北アフリカ地域の35歳未満イノベーターに選ばれました。

この取り組みは、サウジアラビアが「気候変動への解決策を科学と技術でリードする」というビジョンを示す象徴でもあります。

紅海などの脆弱なサンゴ礁を守るだけでなく、世界の海洋保全にも大きく貢献する可能性を秘めています。

3Dプリントがもたらす環境への貢献と可能性

サンゴ礁の危機は、地球環境全体に影響を及ぼす深刻な問題です。

そんな中、3Dプリントという最新技術が「海を救う切り札」になろうとしています。

イスラエルやサウジアラビアをはじめ、世界中で取り組みが広がる人工サンゴ礁プロジェクト。

今後の成果次第では、サンゴ礁保全の常識を大きく変える可能性があります。

私たち一人ひとりが環境問題に関心を持つことも、この流れを後押しする力になるでしょう。

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