虫に「怖い」「汚い」といったネガティブな印象を持つ人もいるでしょう。
しかし、虫は生態系の維持に欠かせない存在であり、私たちの暮らしを支えてくれる重要な役割を担っています。
たとえば、ムカデやヤスデは土壌を豊かにし、ミツバチは、果物や野菜の受粉を助けることにより、私たちの安定した食生活を支えています。
ムカデ — 自然界の分解者
ムカデは、肉食動物で、昆虫やクモ、ミミズなどを捕らえて食べる捕食者です。
夜行性であり、日中は石や落ち葉の下、土壌の中などで休み、夜間に活動します。
目は退化しており、触覚を主な手がかりとして行動し、動いているものに接触した瞬間に、毒を注入して捕食するのです。
また、動物の死骸も食べ、糞として細かい形態に変え排出することで、分解を助けるため、分解者としての役割も持っていると捉えられる場合もあります。
このような特徴を持つムカデは、生態系のバランスを保つ、重要な役割を果たす存在といえるでしょう。
ヤスデ — 土壌のリサイクラー
ヤスデは、湿気の多い場所を好み森林や庭に生息しています。
落ち葉や枯れた植物を食べて分解する「リサイクラー」です。
ムカデと姿が似ていますが、違いがあり、ヤスデは円筒形であるのに対して、ムカデは扁平です。
ヤスデは、夜行性のため夜間に土の中で活動していますが、成長過程に応じて食べるものが変わります。
幼虫の頃は、腐植を食べ、成虫になると枯れた植物を多量に食べます。
ヤスデによって、分解されたものは土にかえり、植物が成長するための栄養分へと変化するのです。
これは、植物の健全な育成や、生物多様性の維持につながります。
このように、ヤスデは土壌を豊かにし、生物多様性を守る仕組みを担っている重要な生物です。
ハチ — 植物に実りを与える運び屋
ミツバチは、花の受粉だけでなく、私たちが食べる果物や野菜の受粉を助ける、非常に重要な生物です。
2011年「国連環境計画(UNEP)」のアヒム・シュタイナー事務局長は「世界の食糧の90%を供給する100種の作物のうち、70種以上がミツバチによって受粉されている」と発表しました。
実際に、りんごや、さくらんぼ、マンゴー、アーモンド、ブロッコリー、キャベツ、玉ねぎなど、数多くの食材の受粉を助けています。
そのため、私たちの安定した食生活には欠かせない存在です。
しかし、ミツバチは日本を含む世界中で数が減少しています。
農薬の使用や、気候変動、環境破壊など、複数の要因があるといわれています。
ミールワーム — ごみ問題を解消する分解者
ミールワームとは、ゴミムシダマシと呼ばれる昆虫の幼虫です。
2015年、スタンフォード大学の研究チームは、ミールワームについての研究結果を発表しました。
ミールワームが食べた発泡スチロールを、腸内で二酸化炭素や、生物分解が可能な物質に変換することを発見したのです。
発泡スチロールを食べてもミールワームの健康状態に影響はなく、腸内で変換された物質は、植物に危害を及ぼすこともないと報告されています。
それまで、プラスチックは生物分解が不可能だと考えられていました。
しかし、ミールワームの腸についての仕組みが明らかになると、プラスチックを分解する方法や、生物分解が可能なプラスチックを、開発できるのではないかと注目されています。
実用化には課題が残されていますが、プラスチックごみ問題の解決に向けた、新たな手がかりとして、期待が寄せられているのです。
虫たちの存在が地球の健康を支えている
虫たちは、それぞれの役割を担いながら、生態系のバランスや、地球の健康を支えているのです。
ムカデは、肉食動物である一方で、小動物の死骸も食べることで分解者の役割も担い、生態系を維持しています。
ヤスデは、枯れた植物を食べて分解することで土壌を豊かにし、生物多様性や生態系のバランスを保っています。
ミツバチは、果物や野菜の受粉を助けることにより、私たちの安定した食生活を支えてくれているのです。
また、ミールワームは、食べた発泡スチロールを、腸内で二酸化炭素や生物分解可能な物質に変換したと報告されており、ゴミ問題を解決する手がかりとして期待されています。
しかし、ミツバチをはじめ、多くの虫たちは、環境問題の影響を受けています。
私たち一人ひとりが、環境問題への意識を高めて行動すると、地球を守ることにつながるでしょう。