朝日新聞が5千人を対象に実施した「第8回SDGs認知度調査」によると、全体の76.3%の人が「SDGs」という言葉を知っていると回答しました。
SDGsを認知している人は、前回の調査(45.6%)から30ポイント以上増加しており、SDGsの認知度が年々上昇していることがうかがえます。
近年、テレビなどで見かけることが増えた「SDGs」という言葉ですが、みなさん、SDGsと似た意味を持つ言葉である「ESG」をご存じでしょうか。
目次
ESGとは?サステナブルな社会実現のために必要な3要素
ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(統治)の頭文字を組み合わせた言葉です。
この3つは、現代において企業が長期的な成長を実現するためには必要な3要素だとされており、サステナブルな社会の実現においても必要な要素だとされています。
上記3点の概要は、以下のとおりです。
- 環境
・再生可能エネルギーの使用
・二酸化炭素排出量の削減
・製造工程における水質汚染の防止、廃棄物の削減
- 社会
・男女平等など適正な労働環境の整備
・サプライチェーンにおける人権問題への対策
・ダイバーシティやワークライフバランス
・地域社会への貢献
- ガバナンス(企業統治)
・適切な情報開示
・不祥事等の防止対策
・資本効率の向上に向けた意識改革
ご覧いただくとお分かりになるように、SDGsとESGには多くの共通点があるため、SDGsへの取り組みは、間接的にESGにおける企業の評価にも繋がります。
近年では企業の評価を高めるため、ESGに配慮する企業が増加しており、現在では企業だけではなく投資家においてもESGへの関心を高めています。
拡大するESG投資
2015年のSDGsやパリ協定の採択以降、ESGへの取り組みを積極的に行う企業がより増加し、それに伴って、そのような企業に対して投資をおこなう「ESG投資」の市場規模も年々拡大していきました。
日本においても、投資基準にESGを含めることを原則としているPRI(国連責任投資原則)に、厚生年金や国民年金の管理・運用を行っているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が署名し話題を集めました。
GSIA(世界持続的投資連合)によると、2020年の世界のESG投資規模は35.3兆ドルと、2012年(約13兆ドル)の約2.7倍の規模にまで増加しています。
サステナブルへの意識の高まりから、ESGやSDGsへの配慮を投資基準として定める投資家も増加しており、今後もその傾向は継続するでしょう。
今、注目を集めている次世代の新技術3選
これらの背景から、世界各国ではサステナブルの実現に向けた革新的な技術開発や、ESGに配慮した枠組みの整備などが急速に進んでいます。
ここでは、サステナブルな社会の実現に向けて今、ESG投資家から注目されている次世代の新技術を3つご紹介します。
セルロース繊維
フィンランド発のスタートアップSPINNOVA(スピノバ)は、木材パルプや小麦や麦、わらといった天然の農業廃棄物から、セルロース繊維を製造する技術を開発しました。
セルロース繊維は再生繊維とも呼ばれ、化学繊維の一種です。セルロース繊維にはレーヨンやキュプラなどがあり、肌触りがよく光沢感があることから女性用のドレスやスカートなどに使われることが多いです。
現在、レーヨンなどのセルロース繊維の製造には、溶剤として多くの有害な化学物質が使用されており、この化学物質の排出が環境問題となっています。しかし、スピノバではこの化学物質を一切使用せずにセルロース繊維を生産でき、かつ生産された服は新たな服へとリサイクルすることも可能とのことです。
同社は欧州のセルロース繊維大手であるレンチング・グループや、スポーツ用品大手アディダスなどから出資を受けており、2021年6月にはフィンランドの証券取引所「ナスダック・ヘルシンキ」に上場しました。
カーボンリサイクル
USGS(アメリカ地質調査所)によると、セメントは世界で年間およそ40億トン生産され、生産に伴うCO2の排出量は世界のCO2排出量の約8%を占めます。
飛行機などの航空交通の排出量が2.8%であることを踏まえると、セメント産業が排出するCO2排出量が大量であることは明白でしょう。
このセメント産業で注目されているのが、2007年にカナダ発で設立されたCarbonCure Technologies(カーボンキュア テクノロジーズ)です。同社はセメントの製造過程で排出されるCO2を回収し、コンクリートに注入することでコンクリートの強度をおよそ10%高める技術を開発しました。
同社はマイクロソフト創業者であるビル・ゲイツ氏や世界の資産家が設立した、温室効果ガス削減への技術開発を支援するファンド「Breakthrough Energy Ventures(BEV)」より2000万ドル調達しており、日本でも三菱商事が同社に出資することを発表しました。
2021年には北海道小牧市の會澤高圧コンクリート株式会社とライセンス契約を締結するなど、日本国内での実装も開始されており、今後の拡大が注目されます。
LIMEX
株式会社TBMが開発した、紙やプラスチックの代替素材として注目されている次世代の新素材LIMEX(ライメックス)。主原料には埋蔵量が豊富な石灰石を使用しており、耐久性や防水性を備えているため、既に多くの企業に導入されています。
紙の製造には多くの森林資源が使用され、石油が主原料であるプラスチックでは原料調達から廃棄までのライフサイクルにおいて、大量のCO2を排出します。
しかし、LIMEXであれば森林資源を一切使用せずに紙の代替品を製造することができ、CO2排出量においても、プラスチックと比べ原材料調達段階の約50分の1にまで削減することが可能です。
2022年時点で既に、伊藤忠商事や韓国財閥大手SKグループなどから330億円近くの資金を調達するなど、国内外ともに注目されているスタートアップ企業です。
環境先進国フィンランドの取り組み
2021年のSDGs達成度ランキング1位のフィンランドは、世界有数の環境先進国として知られており、サステナブルへ貢献する多くの企業を輩出しています。
フィンランドには、VTT(フィンランド技術研究センター)という国営企業があり、同社には2020年時点でおよそ1500人の研究者が在籍しています。先述のスピノバもこのVTTに所属していた研究者が立ち上げた企業で、その他にも、これまでに数多くのスタートアップを生み出しています。
日本においても、「エネルギー」や「輸送・製造」、「家庭・オフィス」に関する3分野で革新的なイノベーションを実現するため、2020年、政府は2兆円規模のグリーンイノベーション基金が設立するなど、サステナブルの実現に向けて積極的に取り組みを進めています。
このような取り組みが拡大し、日本および世界で更にイノベーション技術の開発が進むことが期待されます。