インドネシアは現在、首都をジャカルタからボルネオ島の「ヌサンタラ（Nusantara）」へ移転する計画を進めています。
急速な人口増加や深刻な地盤沈下、大気汚染と洪水被害が続くジャカルタからの移転は、環境面でどのような影響を及ぼすのでしょうか。
移転の概要と環境メリット・デメリットを整理し、持続可能な社会との接点を考えていきましょう。
目次
インドネシアの首都移転計画とは
インドネシア政府は、長年の課題となっていた首都ジャカルタの深刻な環境問題や人口過密を解決するため、カリマンタン島東部に新たな首都「ヌサンタラ（Nusantara）」を建設し、政治・行政機能を段階的に移転する国家プロジェクトを進めています。
この計画は2019年にジョコ・ウィドド大統領が発表し、2022年に正式に議会で承認されました。
2024年には大統領官邸や主要な政府機関の移転が始まり、独立記念日には新首都での式典も開催されました。
首都移転は2045年までの長期計画で、最終的には数十万人規模の人口移動と新都市の完成を目指しています。
ジャカルタの現状
ジャカルタは、人口集中による交通渋滞や大気汚染、地盤沈下と温暖化による海面上昇など、複合的な環境問題を抱えています。
特に地盤沈下は深刻で、北部では数十年で数メートル沈下した地域もあり、洪水やインフラの損壊リスクが高まっています。
さらに、経済・人口の過度な集中は地域格差や社会的不均衡の要因に。
首都移転は、こうした環境負荷の分散や災害リスクの回避、地方経済の活性化を目的とし、インドネシア全体の持続可能な発展を目指す国家戦略と位置づけられています。
新首都ヌサンタラの特徴と環境配慮
ヌサンタラは「森林都市」「グリーンシティ」「スマートシティ」を掲げ、持続可能性を重視した都市設計が特徴です。
都市面積の65％を森林や緑地とし、再生可能エネルギー100％利用、カーボンニュートラルの実現を目指しています。
また、公共交通の自動運転化や歩行者・自転車に優しい都市設計、最新のITインフラ導入など、環境負荷を最小限に抑える工夫が進められています。
開発には国内外の民間企業や大学も参画し、複合用途ビルやホテル、大学などの建設が進行中です。
インドネシアの首都移転の環境面から見たメリット
インドネシアでは、首都をジャカルタからカリマンタン島のヌサンタラへ移す計画が進められています。
この移転は単なる都市機能の移動にとどまらず、環境への負担を減らす大きなチャンスともいわれています。
都市集中による環境負荷軽減
人口と経済活動がジャカルタに一極集中する現状を改善し、災害リスク、交通渋滞、大気汚染の緩和が期待されています。
分散型都市計画により、エネルギー消費とCO₂排出のピーク抑制が可能となり、環境負荷を分散させる効果が期待されます。
環境配慮型都市モデルの推進
ヌサンタラは「スマート・フォレスト・シティ」を掲げ、再生可能エネルギーの活用、公共交通インフラの整備を進めています。
電気バス、スマート交通システム、グリーンビルディングを推進する計画もあり、カーボンニュートラル達成に向けたステップとして注目されています。
インドネシアの首都移転の環境面から見た課題とリスク
インドネシアの首都移転は、環境負荷を減らすチャンスである一方で、自然や地域の人々に新たな課題やリスクを生む可能性があります。
首都移転が進む中で、どのような環境への影響や懸念があるのかを整理しておきましょう。
森林破壊と生物多様性の喪失
ヌサンタラ建設予定地はオランウータンやテングザルなど希少生物が生息する熱帯林地帯です。
新都市の開発に伴う森林伐採は、生物多様性の喪失、ブルーカーボン源であるマングローブ破壊、水源地破壊による洪水リスクの増大など深刻な環境問題を引き起こすおそれがあります。
現地コミュニティ・先住民への影響
インドネシアのカリマンタン島には、昔からその土地で暮らしている先住民族の人々がいます。
首都移転に伴い、新しい町を作るために土地の使い方が変わると、これまでの生活の場が奪われてしまう心配があるのです。
また、引っ越しや仕事の変化が必要になる中で、住んでいる人たちの意見がきちんと聞かれず、移転計画が進められると、住民同士や地域社会の中でトラブルが起こる可能性もあります。
環境負荷移転の懸念
首都を移すことで、ジャカルタの洪水や渋滞といった問題を減らすことが期待されています。
しかし、新しい首都を作るための工事そのものが、自然に負担をかける可能性があるのです。
道路や建物を作る工事が進むと、車の排気ガスが増えて空気が汚れることや、森や自然が壊されてしまうことが心配されています。
今後の展望と私たちが考えるべきこと
インドネシアの首都移転は、災害のリスクを減らし環境問題の解決にもつながる可能性があります。
しかし、新しい都市を作ることで自然環境に負担がかかることも避けられません。
自然を守りながら都市を発展させることが、これからの大きな課題です。
この首都移転の計画からは、便利な都市生活を続けることと、自然や環境を大切に守ることの両方を実現するのが難しいことがわかります。
これからは、豊かな自然と共に暮らせる未来を作るために、何が必要かをみんなで考え続けることが大切です。
