Make in India:インドの経済成長と環境汚染の深刻化の今

中国に次ぐ人口規模を持つインドは、「Make in India(メイク・イン・インディア)」政策のもと、製造業を軸とした経済成長を加速させてきました。

一方で、その急成長の裏側では、大気汚染や水質汚染といった環境問題が深刻化し、国民の健康や生活基盤を脅かしています。

Make in Indiaとは?経済成長を目指す国家戦略

Make in Indiaは、2014年に開始された製造業強化政策です。

製造業がGDPに占める割合を引き上げ、約1億人規模の雇用を創出することを目的としています。

政策導入以降、インド政府は税制簡素化、法人税率引き下げ、破産法整備、通関手続きのデジタル化など、企業活動を促進する改革を進めてきました。

その結果、世界銀行のビジネス環境ランキングは2014年の142位から2020年には63位へと大きく改善しています。

鉄鋼、自動車、医薬品などの輸出産業も成長し、粗鋼生産量は世界第2位、自動車生産台数も世界上位に迫る規模となりました。

ただし、製造業のGDP比率や雇用創出は当初目標に届いておらず、成長の中心は依然としてITサービスなどのサービス産業にあります。

経済発展と引き換えに進む環境汚染

急速な経済成長と人口増加は、生活水準を押し上げる一方で、深刻な環境負荷を生み出しました。

制度やインフラ整備が追いつかず、大気汚染や水質汚染は国民生活を脅かす社会問題となっています。

世界最悪レベルの大気汚染

インドの大気汚染はPM2.5などの指標で世界最悪レベルに達し、最も深刻な汚染段階に分類される日も珍しくありません。

特に首都デリーでは、健康被害が常態化しています。

大気汚染の主な原因

原因は複合的です。

Make in India政策による工場建設の増加や建設時の粉じん、自動車保有台数の急増、農業における野焼き、さらにディワリ期間中の花火や爆竹の使用が大気汚染を悪化させています。

乾季には地形や気象条件も重なり、汚染物質が滞留しやすくなります。

水質汚染と水不足の危機

水問題も深刻です。

6億人以上が水不足に直面し、汚染水の摂取による健康被害も後を絶ちません。

都市化の進展に対し、水道・下水インフラの整備が追いつかず、下水処理率は低水準に留まっています。

地下水汚染も広範囲で確認されており、飲料水として地下水に依存する地域では健康被害が顕在化しているのです。

国民1人あたりの年間利用可能水量も長期的に減少を続けています。

インド政府が進める環境対策の現状

深刻化する環境汚染を受け、インド政府は従来の規制中心の対応から、制度整備・投資拡大・国際協力を組み合わせた包括的な環境対策へと舵を切りつつあります。

大気汚染への緊急対応

インド政府は2022年10月から大気汚染対策を本格的に強化しています。

具体的には、「PUC(Pollution Under Control)証明書がなければ燃料を供給しない」というルールが施行され、わずか4日間で21万2千件以上のPUC証明書が発行されました。

このうち約1万台が排出ガス基準を超えて不合格となっています。

水質改善への取り組み

水質汚染に対しては、2019年5月に水専門の政府機関「ジャル・シャクティ省」が設立されました。

2022年には日本の環境省とジャル・シャクティ省との間で「分散型生活排水管理分野における協力の覚書」が締結されています。

30%程度に留まっている下水処理率を早急に引き上げるため、優れた水処理技術を持つ日本の協力を得ながら下水施設の拡充を進めています。

カーボンニュートラルへの挑戦

インドのモディ首相は、2021年のCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)において、2070年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを表明しました。

これに伴い、2030年までに再生可能エネルギーを含む非化石燃料による発電容量を500GWまで増幅させる目標を掲げています。

EV(電気自動車)の普及も重点政策の一つです。

政府は2030年までに乗用車の40%、二輪・三輪車の80%を電動化する目標を設定し、FAME(高速充電・補助金)やPLI(生産連動型優遇策)を通じてEV普及を後押ししています。

経済成長の先にある試練――インドに問われる環境と持続可能性の両立

Make in India政策により、インドは製造業の強化と経済成長を加速させていますが、その代償として環境汚染が深刻化しているのが現実です。

大気汚染は世界最悪レベルに達し、水質汚染や水不足も国民の生命を脅かす段階にあります。

インド政府は大気質管理局の設置やジャル・シャクティ省の創設、カーボンニュートラル宣言など、さまざまな対策に乗り出していますが、2024年のディワリ期間中の大気汚染指数が依然として「危険」レベルを記録するなど、対策の効果が十分に表れているとは言い難い状況です。

環境問題への包括的な対策は、経済発展と同時に国民の健康と福祉を守るために極めて重要です。

持続可能な成長を実現するためには、国民一人ひとりが環境問題への意識を高め、実際の行動に移すための教育も不可欠となっています。

インドが「世界の工場」から「世界の人材資本」へと進化を目指す中で、経済成長と環境保全のバランスをいかに取るかが、今後の大きな課題となるでしょう。

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