修理する権利(Right to Repair)と電子ごみ――世界で進む法整備と日本の現状

スマートフォンの画面が割れたとき、「修理に出すより新しいモデルに買い替えた方が安い」と感じた経験はないでしょうか。
実はこの状況、単なる価格の問題ではありません。

メーカーが修理に必要な部品や情報を囲い込み、消費者が自由に修理できない仕組みが意図的に作られてきた側面があるのです。
こうした構造に切り込む動きが「修理する権利(Right to Repair)」であり、いま欧米を中心に法整備が急速に進んでいます。

そもそも「電子ごみ(E-waste)」ってどれくらい深刻?

電子ごみ(E-waste)とは、電池やプラグを持つ廃棄された電子機器のことで、現代社会で最も急速に増加している廃棄物の一つです。

国連が発表した「グローバル電子廃棄物モニター2024」によれば、2022年に世界で発生した電子ごみは約6,200万トンに達しています。
このまま現状が続けば、2030年には約8,200万トンへと拡大する見込みです。

さらに深刻なのは、リサイクルが追いつかない現実です。
2022年時点で正式に回収・リサイクルされた電子ごみはわずか22.3%にとどまっており、残りの大部分は不適切に廃棄されています。

電子ごみにはレアメタルや金・銅といった価値ある資源が含まれる一方、水銀や鉛などの有害物質も含まれています。
適切に処理されなければ土壌や水を汚染し、廃棄物処理インフラが整っていない途上国の住民の健康を脅かすことも。
「修理して長く使う」ことは、こうした問題を根本から減らすアプローチのひとつです。

「修理する権利」とは何か?

修理する権利(Right to Repair)とは、パソコンやスマートフォン、家電などを、メーカーを介さずに消費者自身や自分で選んだ修理業者が修理できるようにする権利・法的概念のことです。

1990〜2000年代にかけて電子機器の高度化が進む中で、メーカーは修理に必要な情報を「知的財産」として囲い込み、純正部品の販売も制限するようになりました。
修理できるのはメーカー指定の正規業者だけとなり、費用は新品購入に近い水準まで上昇。

「修理するのではなく買い替えた方が安い」という考え方が社会的通念として定着していきます。
加えて、製品を意図的に短命に設計して買い替えを促す「計画的陳腐化」の手法も広まり、電子ごみはさらに増え続けました。

修理する権利の運動は、こうした構造を変えることを目指しています。
消費者が適切な情報・部品・工具にアクセスできるようにし、「修理する」という選択肢を取り戻すことが目標です。

欧米で急速に広がる法整備

修理する権利をめぐる動きは、欧米では政策レベルに発展しています。

EUでは2020年3月に採択した「循環型経済行動計画」で修理する権利の強化を明言し、法整備を加速させました。
そして2024年7月10日にEU官報で公布された「修理する権利指令」では、製品メーカーに対して合理的な価格・期間での修理義務が課されることになりました。
EU加盟国は2026年7月31日までに国内法を整備・適用することが求められています。

この指令が生まれた背景には、深刻な実態があります。
EUでは毎年、まだ修理できる製品が早々に捨てられることで、約3,500万トンの廃棄物、約2億6,100万トンの温室効果ガスが不必要に発生しており、消費者の損失は年間約120億ユーロにも上ると欧州委員会は推計しているのです。
修理を促すことは、環境対策であると同時に消費者保護でもあります。

日本での「修理する権利」はどこまで来ているか

日本では欧米のような法整備はまだ進んでいません。
大きな障壁のひとつが電波法です。

国内で電波を発する電子機器には「技術基準適合証明(技適)」が必要であり、有資格者以外が修理した場合に電波法違反となる可能性があります。
そのため、欧米のように消費者や独立系業者が自由に修理に挑戦できる環境がまだ整っていないのが現状です。

日本のメーカーも欧米向け製品でEUの修理する権利指令への対応が求められており、修理しやすい製品設計の流れは国内市場にも徐々に波及していくと考えられます。

「修理する」選択がつくる未来

電子機器を修理して長く使うことは、新品を製造する際に生じる資源採掘やCO₂排出を回避できる点で、環境負荷の削減に直結します。
修理する権利が広まることで、メーカーは設計段階から修理しやすい製品を作るようになり、消費者には「直す」という選択肢が現実的に開かれます。

壊れたらまず「修理できるか?」と一度立ち止まること。
その小さな問いが、年間6,200万トンという膨大な電子ごみを減らし、サーキュラーエコノミー(循環型経済)を実現するための第一歩になるのです。

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