かつては当たり前のように食卓に並んでいたサンマの塩焼き。
しかし近年、スーパーで1尾数百円もする高値を目にしたり、そもそも陳列されていないことも珍しくなくなりました。
農林水産省のデータによると、日本の漁獲量は1984年の1,282万トンをピークに減少が続き、2022年には392万トンとピーク時の3分の1以下まで落ち込んでいます。
その大きな原因のひとつが、地球温暖化による海水温の上昇です。
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日本近海の海水温は、この40年で約1℃上昇した
農林水産省の広報誌によれば、日本近海の平均海面水温の平年差は、1980年にはマイナス0.5℃だったのに対し、2020年にはプラス0.5℃と、この40年間で約1℃上昇しています。
気象庁の公式データによれば、日本近海の海域平均海面水温(年平均)は2025年時点で100年あたり+1.36℃の割合で上昇しており、世界全体の平均(+0.63℃/100年)の2倍を超えるペースです。
わずか1℃と聞くと小さな変化に感じるかもしれませんが、海という巨大な生態系の温度が上がることの影響は計り知れません。
魚は変温動物であり、水温の変化が生息域・回遊経路・産卵・成長のすべてに直接影響します。
この小さな数字の積み重ねが、日本の漁業と食卓を大きく変えつつあるのです。
「サンマ・スルメイカ・サケ」が激減した理由
水産庁の令和6年度水産白書によれば、海水温の上昇や海流の変化が主な要因となり、日本人に親しみ深い3魚種の漁獲量が近年大きく減少しています。
農林水産省の資料によれば、2014年に3種合計で54.8万トンあった漁獲量は、2022年には13.7万トンと約75%も減少しました。
サンマは、親潮(寒流)の南下が弱まったことで、本来サンマが好む冷たい海域が北に後退し、漁場が大幅に沖合へ移動しています。
さらに沖合では、サンマの餌となる動物性プランクトン(亜寒帯性カイアシ類)の密度も低く、成長の悪化や死亡率の増加が指摘されているのです。
スルメイカは1990年代後半以降、夏から秋の海水温上昇によって日本海での漁場が沖合化し、近年では資源量の減少に加えて産卵期の遅れや魚体の小型化まで確認されています。
サケ(シロサケ)は、ふ化放流によって資源が維持されてきましたが、海に出た稚魚が好む適温の海域が縮小し、成長に必要な餌環境も悪化したことで、川に戻ってくる割合(回帰率)が著しく低下しています。
「北の魚」が減り、「南の魚」が増える
一方で、もともと暖かい海を好む魚種は分布を北に広げています。
ブリの漁獲量は1990年代以降増加し、かつてほとんど水揚げがなかった北海道での漁獲が急増しました。
サワラ(日本海・東シナ海系群)は1999年以降に日本海での漁獲が増加し、タチウオやフグ類も太平洋北部での分布拡大が確認されています。
食卓に並ぶ魚の顔ぶれは、いままさに「北の魚から南の魚へ」と静かに入れ替わりつつあります。
プランクトンの減少と「酸欠」が魚を追い払う
海水温の上昇が引き起こす問題は、魚の分布変化だけではありません。
海水が温まると、冷たい深層水と表層水が混じりにくくなり(成層化)、栄養分が海底から表層に届かなくなります。
プランクトンの増殖に必要な栄養塩が不足することで植物プランクトンが減り、それを食べる動物プランクトンも減少し、さらに小魚→大型魚へと連鎖的に食料が不足する「食物連鎖の細り」が起きます。
水産庁の白書でもサンマの不漁の一因として「餌となる動物性プランクトンの密度が低い」ことが明示されているのです。
また、水温が高くなると海水中に溶け込める酸素量が減少します(溶存酸素量の低下)。
特に閉鎖的な湾や内海では、夏場に海底付近の溶存酸素が著しく低下する「貧酸素化」が起こりやすく、魚介類が酸欠状態になって逃げ出したり、死亡したりする被害が報告されています。
「海の森」が消える── 磯焼けという静かな危機
海水温の上昇がもたらすもうひとつの深刻な問題が「磯焼け」です。
磯焼けとは、浅海の岩礁域において、コンブやワカメなどの海藻の群落(藻場)が著しく衰退・消失する現象のことです。
海藻は高水温に弱く、一定の水温を超えると枯死してしまいます。
さらに温暖化によって、もともと暖かい海を好む植食性の魚類(アイゴ・イスズミなど)の分布が北に拡大し、これらの魚が海藻を大量に食べてしまう食害が全国的に深刻化しているのです。
水産庁の磯焼け対策ガイドラインでも「海水温の上昇により藻場への影響がますます大きくなっている」と明記されています。
藻場は、稚魚や小さな生き物が身を隠す「海の保育園」です。
藻場が消えれば、そこで育つはずだった多くの魚介類が失われ、漁獲量の減少にもつながります。
水産庁の白書でも「藻場の減少等により、海洋生態系の変化が漁業にも影響を及ぼしている」と指摘されています。
まとめ:食卓を守るために、私たちにできること
これらの変化はすべて、根底で地球温暖化──つまりCO₂をはじめとする温室効果ガスの増加──とつながっています。
日常生活での省エネ、再生可能エネルギーの選択、食品ロスを減らすことが、回り回って海の生態系を守ることにつながります。
また、いま日本近海で豊富に獲れる魚(ブリ・サワラ・タチウオなど)を積極的に選ぶことも、持続可能な水産業を支える消費行動のひとつです。
食卓の変化を嘆くだけでなく、その原因を知り、選択を変えることが、未来の海と食を守る第一歩になります。

