日本の環境問題の歴史は、19世紀後半に発生した「足尾鉱毒事件」から始まります。
高度経済成長期の1950年代から1970年代にかけて、日本各地でさまざまな公害事件が発生し、特に四大公害病は大きな社会問題となりました。
これらの公害事件で、健康被害を引き起こしたことが契機となり、法整備や環境対策が進みました。
目次
高度経済成長期に大きな問題となった四大公害病
高度経済成長期の1950年代から、重化学工業の発展に伴い、日本各地で工場から貴金属や有害化学物質が排出され、さまざまな公害事件が起こりました。
特に、大きな被害をもたらした事件が四大公害病と呼ばれています。
熊本県:水俣病
水俣病は、熊本県水俣市で1953年頃から1960年頃に発生しました。
原因は、化学工場から海に流出したメチル水銀です。
メチル水銀を含む水俣湾の魚介類を、長期間食べていた住民に症状が現れたのです。
手足のしびれ、麻痺などの症状が見られ、命を落とした人もいました。
裁判の結果、2,000名以上が被害者として認定されました。
メチル水銀を排出していた企業には、賠償金の支払いが命じられ、さらに公害対策を怠った国と熊本県の責任が認められたのです。
三重県:四日市ぜんそく
四日市ぜんそくは、三重県四日市で1960年頃から1970年頃に発生しました。
原因は、石油化学工場から煙とともに排出された二酸化硫黄による大気汚染です。
気管支炎や喘息などの呼吸器疾患や、肝障害などの症状が現れ、亡くなった人もいました。
約1,700名が、被害者として認定されています。
川崎市や尼崎市などの全国の工業地帯でも、四日市ぜんそくと似たような公害が起きています。
新潟県:新潟水俣病
新潟水俣病は、新潟県阿賀野川流域で1964年頃から発生しました。
原因は、水俣病と同様に工場から川に排出されたメチル水銀であり「第二水俣病」とも呼ばれています。
新潟水俣病でも、命を落とした人がいます。
被害を受けた人が、裁判を起こし、約700名が被害者として認定されました。
富山県:イタイイタイ病
イタイイタイ病は、富山県神通川流域で1910年から1970年代前半まで発生しました。
長期にわたり、原因不明の症状とされていました。
1955年にこの病気が関心を集め、その後の調査により鉱山から排出されたカドミウムによる、水質および土壌汚染が原因であることが判明したのです。
骨が脆くなり強い痛みが生じ、「痛い痛い」と叫んでいたことから、イタイイタイ病と名付けられました。
被害者として、170名が認定されています。
近代日本の公害対策と環境問題解決への取り組み
さまざまな公害事件により、産業活動が健康被害や環境問題を引き起こしていることが判明し、解決するために行政機関や法律、制度の整備が進められました。
2001年に環境省を設立
1971年に「環境省」の前身である「環境庁」が発足しました。
公害対策と自然保護を行うために、各省庁に分散している公害に関する行政の統一を図り、大気汚染対策を進めました。
その後、2001年に環境庁が再編成され、環境省が設立されたのです。
環境省は、公害問題に加えて、以下のような環境保全全般に関する行政を担っています。
● 水質汚染や土壌汚染対策
● 野生動植物の保護
● 廃棄物対策
● 化学物質対策
● 放射性物質の監視測定
● 地球温暖化対策
● 海洋汚染対策
このような、さまざまな環境問題に対して国内での対策を進めるとともに、国際機関とも連携を取りながら、地球規模の環境問題に取り組んでいます。
環境を破壊する行為の取り締まり強化
自然環境を守るために、以下のような法律が制定されています。
● 大気汚染防止法
● 水質汚濁防止法
● 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律
● 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
これらの法律に違反する行為は「環境犯罪」と呼ばれるのです。
具体的には、ごみの不法投棄や不法焼却、基準値を上回る有害物質を排水することなどが犯罪行為にあたります。
環境犯罪に対する取り締まりや、罰則が強化されています。
公害紛争処理制度の設置
公害問題を解決するための、公害紛争処理制度が設置されています。
公害紛争処理制度は、以下のような公害問題の特徴に対応する制度です。
● 被害者が多い
● 被害は財産の損失に限らず、健康や命生命を脅かす可能性がある
● 被害を受けた範囲、被害額の判定が難しい
公害紛争処理制度は、目的別に以下の4種類があります。
● 調停
● 裁定
● あっせん
● 仲裁
公害紛争処理制度は、的確かつスムーズな問題解決を目的として設置されています。
公害問題の歴史を振り返り、持続可能な社会へ
日本の環境問題の歴史は、19世紀後半に発生した「足尾鉱毒事件」から始まりました。
その後、高度経済成長期の四大公害病が大きな契機となり、行政機関や法律の整備が進められました。
私たちも、一人ひとりが環境問題への意識を高め、持続可能な社会の実現に向けて行動することが重要です。