河川は 、農業や工業をはじめ、私たちの命や日常生活を支える欠かせない存在です。
しかし、河川の汚染が、日本だけでなく世界的な問題となっています。
河川の汚染は、農作物や水生生物へ影響を与え、周辺に住む住人の健康問題も引き起こすのです。
2016年には「持続可能な開発目標(SDGs)」と呼ばれる国際目標が掲げられ、世界的に水質改善に向けた取り組みが行われています。
目次
世界一汚れた川 ― インドネシア・チタルム川の現状
世界一汚れた川といわれているのは、インドネシアのチタルム川です。
全長約300kmのチタルム川周辺には、2800以上の繊維工場や食品工場が存在しています。
それらの工場から、有毒廃棄物がチタルム川に排出されている可能性があります。
国際環境NGOグリーンピースが、排水サンプル調査を実施した結果、pH14を示したサンプルも確認されました。
他の川は、多くの場合pH7程度とされています。
pHは、次のように0〜14で液体の性質を示しています。
● 7:中性
● 7より小さい:酸性
● 7より大きい:アルカリ性
pH14の液体は、非常に強いアルカリ性であり、皮膚に接触すると損傷したり、目に入ると失明したりする可能性があるため、取り扱いに注意が必要とされているのです。
実際に、チタルム川周辺に住む住民の疥癬や皮膚炎、工場から排出される汚れた空気による呼吸器感染症などの健康問題が報告されています。
その他、農作物や水生生物への影響も出ているのです。
また、工場や住民は、川をごみの廃棄場所としていたことから、投棄された大量のごみも汚染を悪化させています。
法的地位を得たペルーの河川
ペルーの裁判所は、2024年マラニョン川に「法的人格」を認める判決を下しました。
生存する権利、自由に汚染されることなく流れる権利、生態系の重要な役割を行使する権利などが認められたのです。
全長1450kmあるマラニョン川は、石油やガスが産出されている中心部にも流れています。
1977年〜2022年に、80件以上の原油流出が生じており、環境や地域住民の健康が危惧されていました。
さらに、2000年には船舶から5,000バレル(約795,000リットル)の原油流出が生じたのです。
住民が設立した組織や環境団体は、コロンビアやニュージーランドで法人格が認められている河川があることに注目しました。
そして、2021年にマラニョン川に法人格を認めることを求めた裁判を起こしました。
2024年には、ペルーで初めて河川に法的人格を認める判決が下りたのです。
なぜ河川はここまで汚染されたのか
河川が汚染された原因として、主に以下のようなことが挙げられます。
● 産業排水
● 生活排水
● 不法投棄
● 地球温暖化
これらの原因は、国の状況によって異なります。
排水処理設備の遅れ、急激な人口増加、計画が不十分な都市開発、法的規制の不足などが背景にあるのです。
以前の日本において、河川が汚染される主な原因は産業排水でした。
工場や事業場への規制が厳格化されたことで、排水処理対策は進化しました。
現在は、家庭の台所やトイレ、お風呂、洗濯機などから排出される生活排水が河川を汚染する主な原因とされています。
日本の下水道普及率は、79.3%です。
普及していない地域では、全ての生活排水を処理している場合と、トイレの排水以外はそのまま河川や海に排出されている場合があります。
また、下水道が整備されている地域でも、油や洗剤などは十分に処理できない状態で川へ排出される場合もあるのです。
地球温暖化によって、河川の水温が上昇し、植物プランクトンが異常発生したり、生態系が変化したりすることも、汚染につながっています。
このように、河川が汚染された原因は、私たちが環境への配慮よりも経済的な成長を優先してきた結果です。
回復への挑戦 ― 世界と日本の取り組み
2016年に「持続可能な開発目標(SDGs)」と呼ばれる国際目標が掲げられました。
そのなかに、2030年までに達成する目標として、汚染の減少、投棄の断絶、有害物質排出を最小化、未処理排水を軽減、再生利用などによる水質改善が盛り込まれています。
このような目標に向けて、世界的に取り組みが行われています。
日本では、主に下水道整備や河川の水質浄化対策などが行われてきました。
日本における下水道の普及率は、前項でも紹介した通り79.3%であり、トイレ以外の生活排水をそのまま川へ排出している場合もあります。
さらなる下水道の普及や、処理設備の整備が求められます。
また、河川の水質に対しては、昭和30年代以降次のような対策が継続的に行われてきました。
● 浄化導水:混濁した水量が乏しい河川に清浄な河川水や高度処理水を補給
● 浚渫(しゅんせつ):河底に蓄積した泥の除去
こうした取り組みの積み重ねによって、一定の水質改善が確認されています。
河川汚染を防ぐために私たちにできること
河川の汚染は、世界的な課題であり、他国だけの問題ではありません。
現代の日本では、生活排水が河川を汚染させている主な原因とされています。
下水道の普及を進めるとともに、私たち一人ひとりが生活に欠かせない河川を守る意識をもって行動することが大切です。
手軽にできる河川の汚染対策は、次のようなことです。
飲み物や汁物を台所へ流さずに済むよう適量を準備する、食器を洗う前に油を拭き取る、洗剤やシャンプーの使いすぎを控えるなど、日常生活で簡単にできる工夫があります。
また、正しく処理されず河川や海に流れたプラスチックも水質汚染の原因の1つです。
プラスチックの使用を減らしたり、ごみを分別したりすることも河川の汚染を防ぎます。
このような、一人ひとりの小さな行動が環境改善へつながります。
「再生された川」へ変えるために、何をするべきか考えて行動していきましょう。