産業革命以降、人間の経済活動は多くの自然環境を大きく変えてきました。
特に鉱山や工場の跡地は、採掘や開発によって生態系が寸断され、草一本も生えない「死の土地」となる例が少なくありません。
しかし現代では、科学技術とコミュニティの力を駆使し、かつて破壊された土地も「新たな価値ある空間」として再生できるモデルが生まれています。
その象徴的な存在が、イギリス南西部コーンウォール州で展開されている「エデン・プロジェクト」です。
目次
エデン・プロジェクトとは|採掘場跡地から環境再生のシンボルへ
エデン・プロジェクトは、もとは粘土採掘によって荒廃した採掘場跡地の再生事業からスタートしました。
粘土採掘の終わった土地は植生もなく、水はけが悪い、再利用が極めて難しい場所とされていました。
しかし生物学者ティム・スミットと著名な建築家サー・ニコラス・グリムショーらにより、大胆な環境再生プロジェクトが始動。
2001年、約15ヘクタールの広大な敷地に、世界最大級の温室「バイオーム」を中心とした環境複合施設が誕生しました。
熱帯雨林バイオーム、地中海気候バイオーム、さらに屋外の英国・コーンウォール在来種の庭園など、世界中の生態系を一ヵ所で再現した「地球の縮図」とも呼ばれる施設です。
この地から、「環境は再生できる」「破壊された自然もよみがえる」という力強いメッセージが世界に発信されています。
環境再生への主なアプローチ・工夫
エデン・プロジェクト最大の象徴は、巨大なジオデシックドーム型の温室「バイオーム」です。
ドームの外皮は六角形パネルを組み合わせた軽量で強靭な特殊樹脂(ETFE)で覆われ、効率的に太陽光を取り込みつつ、熱帯・亜熱帯の植物や多様な生態系を内部に再現しています。
もともと土壌条件が悪かった跡地には、世界各地から搬入した土や有機物を持ち込み、緑化の基盤を一から構築しました。
また、施設運営にも徹底した環境意識が反映されています。
雨水の再利用、地熱やバイオマスなど再生可能エネルギーの活用、大規模緑化によるCO2吸収など、サステナブルな技術・手法が随所に盛り込まれています。
生態系・コミュニティ再生の効果
エデン・プロジェクトは現在、200万本以上の植物、鳥類・爬虫類・昆虫を含む多様な生物が共存する人工楽園となりました。
熱帯から地中海、イギリス在来の植生に至るまで揃い、その生物多様性の高さは欧州でもきわめてユニークです。
地域経済への波及効果も大きく、年間200万人を超える観光客が訪れ、コーンウォール州の新たな産業の担い手となっています。
さらに地元学校との連携による環境教育プログラム、市民参加型の植樹や保全活動など、「ひと」と「自然」がともに再生・成長していくコミュニティ形成にも貢献しています。
建築・デザインから見る未来の再生モデル
エデン・プロジェクトの建築設計は、自然界の構造――蜂の巣や植物細胞の形――に着想を得ています。
軽く強いジオデシック構造と再生素材の利用は、都市や産業地域の再生系プロジェクトの先進モデルとされ、世界各地の都市再生や環境施設開発にも活用が進んでいます。
「建築」「技術」「地域コミュニティ」が三位一体となる、美しさと機能、環境再生を両立した新しいランドスケープは、都市型サステナビリティのグローバルスタンダードを築いているのです。
世界への発信と今後の展望
エデン・プロジェクトはその成功をもとに、イギリス国内や世界各地で新たな再生複合施設計画を進行中です。
持続可能な開発・生物多様性の保全が喫緊の課題となる時代に、「役割を終えた土地も創意と協働でよみがえる」ことを実証する取り組みへの関心が高まっています。
また、気候変動と生物多様性喪失の危機感が高まる中で、エデン・プロジェクトは人・社会・地球が共生する「新たな持続可能な社会モデル」の先端から、普及啓発とネットワーキングという役割を拡大し続けています。
エデン・プロジェクトが示す、再生と共生社会への可能性
エデン・プロジェクトが示した最大の希望は、「たとえ人間が破壊した環境であっても、知恵と技術、コミュニティの力で再生できる」という実証です。
荒廃した粘土鉱山が、いまや世界有数の生物多様性・環境教育拠点へと転換されたストーリーは、「環境再生の可能性」を世界に力強く発信しています。
都市や開発跡地の未来を考える上で、エデン・プロジェクトの取り組みは私たちに多くのインスピレーションと実践的課題解決のヒントを与えてくれるのです。