毎年3月22日は「世界水の日」と定められています。
この日は、水の重要性を再確認し、誰もが安全な水を利用できる未来のために行動を起こす日です。
実は、私たちの生活に欠かせない水の多くは、遠く離れた氷河から供給されています。
目次
氷河は地球の貴重な“水の貯蔵庫”
氷河とは、長い年月をかけて降り積もった雪が圧縮され、氷の塊になったものです。
地球の歴史の中では、少なくとも4回の大規模な氷河期があり、最新の氷河期は約200万年前に始まりました。
最も寒かった時期には、現在の3倍もの面積が氷で覆われていたといわれています。
現代でも、世界の氷河総面積は約1,500万平方キロメートルで、地球の陸地の1割程度を占めています。
そのほとんど、99%は南極大陸とグリーンランドの巨大な氷床です。
南極では厚さ4,000メートルを超える場所もあり、グリーンランドでも3,000メートル以上に達します。
残りのわずか1%が、世界の山岳地帯に点在する氷河です。
山岳氷河は“水の恵み”を届ける
氷河は多くの大河の源流として機能しています。
北アメリカのコロンビア川、ヨーロッパのライン川やドナウ川、アジアのインダス川やガンジス川、アフリカのナイル川など、多くの川は氷河の融水によって生まれています。
氷河は冬の間に氷として水を貯め、夏の乾季に少しずつ水を放出します。
そのため、雨の量に左右されやすい川よりも流れが安定し、農業や発電、日常生活に欠かせない水を提供しています。
氷河は大地を耕す“自然のブルドーザー”
氷河は水を供給するだけでなく、何万年にもわたって大地を削り、運び、肥沃な土壌を作ってきました。
アメリカのアイオワ州に広がるトウモロコシ畑やジャガイモ畑も、氷河がもたらした土壌があってこそ育まれています。
氷河は雪が圧縮されて氷になると、重力に従ってゆっくりと下方に流れます。
その過程で岩や泥を削り取り、下流へ運ぶのです。
フィヨルドやナイアガラの滝なども、氷河の力で形成されたと考えられています。
19世紀のスイスの学者ルイ・アガシーは、こうした氷河の作用を「神々の偉大な鋤」と表現しました。
氷河が運ぶ土は栄養豊富で水はけが良く、植物が根を伸ばしやすい特性を持っています。
長い年月にわたる氷河と植物の循環が、私たちの暮らしを支える豊かな土地を作り上げてきたのです。
氷河は急速に消えつつある
21世紀に入り、世界中の氷河は以前よりも早いペースで縮小しています。
ヒマラヤ地域では、カトマンズの北に位置する標高7,225メートルのランタン・リルンの斜面に広がるリルン氷河が、かつての白銀の輝きを失い、黒ずんだ岩肌が目立つようになっています。
現地の人々も「氷河が年々小さくなっている」と口にします。
標高4,380メートルのゴサインクンド湖周辺では、以前12月に降っていた雪が今では2月まで降らなくなるなど、氷河の後退はもはや遠い未来の話ではありません。
氷河崩壊による災害の危険性
2021年2月、インド北部ウッタラカンド州で氷河が崩れ、鉄砲水が発生しました。
多くの住民が被害を受け、水力発電所も甚大な損害を受けています。
カシミール大学の研究によると、同州にある約8,000の氷河のうち、1980年から2013年にかけて衛星写真で分析された9か所では、氷河の面積が平均で2割も縮小していました。
特に小さな氷河の消失が目立ち、数百年以内に地域から完全に姿を消す可能性も示唆されています。
こうした氷河の不安定化は、地域の国際関係にも影響を及ぼしています。
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地域では、水資源の安定供給が国家安全保障に直結しており、氷河の融解による洪水や水不足が両国間の緊張をさらに高めています。
氷河の急速な融解と私たちへの影響
氷河はゆっくりと融けることで、私たちが安定した水を利用できる重要な役割を担っています。
しかし急速に崩れる場合、洪水などの災害リスクが高まり、その後には深刻な水不足が発生します。
現在、氷河の消失速度は過去に例を見ないほど早まっており、過去20年間で氷河の質量損失は約2倍になっています。
2100年までに多くの氷河が消失すると予測され、すでに海面は1900年と比べ約20センチ上昇しています。
このまま氷河の減少が続くと、洪水や干ばつ、地滑り、さらには水資源を巡る国際的な緊張といった、地球規模で連鎖的な危機が起こる可能性があります。
氷河を守ることは未来を守ること
氷河の保護は、遠くの山の話ではなく、私たちの暮らしや将来を守るための大切な行動です。
地球の気温上昇を1.5度以内に抑えるためには、温室効果ガスの排出削減が不可欠です。
また、再生可能エネルギーの導入や省エネルギーの実践、日常生活での水の節約、地域での自然環境保護活動など、小さな取り組みも重要です。
さらに、氷河や水資源についての知識を広め、国際的な協力を強化することも未来を守る力になります。
私たち一人ひとりの行動が積み重なり、地球の“凍った命綱”である氷河を次の世代に残す大きな力になるのです。

