3000万年もの間、ほとんど姿を変えずに生き続けてきた「生きた化石」オオサンショウウオ。
国の特別天然記念物に指定され、日本の川の生態系で重要な役割を果たしてきたこの貴重な生物が、今、絶滅の危機に瀕しています。
水質悪化や生息環境の変化に加え、外来種との交雑によって純血の個体が激減している現状は、私たちに何を問いかけているのでしょうか。
目次
「生きた化石」オオサンショウウオとは
オオサンショウウオは、世界最大級の両生類として知られる日本固有種です。
スイスで発見された3000万年前の化石と現在の姿がほとんど変わっていないことから、「生きた化石」と呼ばれることも。
岐阜県より西側の本州、四国、九州の一部地域に生息し、主に河川の上流から中流域を生活の場としています。
通常は全長60cm程度ですが、近年の記録では全長148cm、体重30kgという大型個体も確認されています。
オオサンショウウオが減少した原因
オオサンショウウオは、日本の清流を代表する生き物ですが、近年その数は著しく減少しています。
減少の背景には、人間の活動によって引き起こされた環境の変化が大きくかかわっており、単一の原因ではなく、いくつもの要因が重なって影響しています。
生息環境の破壊
オオサンショウウオの減少には、複数の要因が複雑に絡み合っています。
最も大きな要因は、河川の護岸工事による生息環境の変化です。
オオサンショウウオは体が大きいにもかかわらず、体がぴったり収まるほどの小さな「すきま」を好みます。
川底の石の下や川岸が掘れた場所などがすみかとなりますが、洪水対策のためコンクリートで川底や川岸を固める工事が行われると、こうした「すきま」が失われてしまうのです。
また、堰やダムなどの高い段差によって、上流への移動が困難になっている地域も多く存在します。
オオサンショウウオは繁殖前や流された際に川底を歩いて上流へ移動する習性がありますが、こうした構造物が移動の障壁となっているのです。
一部の堰では、オオサンショウウオが上流へ登れるよう段差を解消する対策が実施されている場所もあります。
水質の悪化
農薬や肥料、生活排水によって水質が悪化したことも、オオサンショウウオの減少に関係している可能性があります。
また、農業用に大量の取水が行われ、川の水量が減少していることも影響していると考えられています。
外来種との交雑で進む遺伝的危機
日本のオオサンショウウオは、生息環境の悪化だけでなく、外来種との交雑という目に見えにくい脅威にもさらされています。
この問題は、個体数の減少にとどまらず、種としての「遺伝的な純粋性」そのものを失いかねない深刻な危機であり、保全のあり方が根本から問われています。
チュウゴクオオサンショウウオの侵入
オオサンショウウオが直面している最も深刻な問題の一つが、外来種との交雑による遺伝的独自性の喪失です。
日本のオオサンショウウオ(Andrias japonicus)は国の特別天然記念物であり、環境省レッドリストで絶滅危惧II類(VU)に指定されています。
しかし、1970年頃に食用として持ち込まれた外来種チュウゴクオオサンショウウオ(Andrias davidianus)との交雑が各地で確認され、深刻な問題となっているのです。
外来種は在来種を捕食するだけでなく、近縁な在来種と交配することで遺伝的独自性を損ない、個体群を減少させる「遺伝的撹乱」を引き起こします。
防除の困難さ
2024年7月からは、チュウゴクオオサンショウウオ全種および交雑個体が外来生物法の対象となり、管理が強化されることになりました。
しかし、調査1回あたりに個体が発見される確率(発見率)は0.1%未満と極めて低いことが推定されています。
これは、現在の調査手法(捕獲・除去)を継続しても、個体群サイズを抑制するほどの効果は期待できないことを示しています。
交雑個体が定着した後の防除の難しさが、定量的にも明らかになったのです。
オオサンショウウオを守るためにできること|「いい塩梅」の環境管理
サンショウウオ類全般にいえることですが、昔ながらの農業を想像しながら「いい塩梅」を模索する必要があります。
落ち葉が溜まりすぎず、草木が茂りすぎない水域、切りすぎず茂りすぎない雑木林とはどのような状態でしょうか。
昔の人がどのように生活していたか想像しながら「いい塩梅」を見つけることが、サンショウウオ類の保全につながります。
人間活動の縮小による環境変化は、日本の生物多様性の危機要因の一つに挙げられています。
適度な人間活動が、実は生物多様性を支えていたという側面もあるのです。
まとめ:減少の原因を正しく理解し、オオサンショウウオを守るために
3000万年もの長い歴史を持つオオサンショウウオは、今、かつてない危機に直面しています。
オオサンショウウオの保全は、単に一つの種を守るということではありません。
それは、川の生態系全体を守り、人間と自然が共生できる環境を次世代に引き継ぐという、より大きな意味を持っています。
生き物を本来の生息地ではない場所に放すことの深刻な影響を理解し、一人ひとりが環境保全への意識を高めることが、オオサンショウウオの未来を守る第一歩となるでしょう。

