砂浜を歩きながら、波に運ばれた漂着物を拾い集める「ビーチコーミング」。
貝殻やシーグラスを集める宝探しのような楽しさがある一方で、目を向けてみると砂浜には無数のプラスチックごみが散在し、肉眼では見えない「マイクロプラスチック」が混じっているという現実があります。
目次
ビーチコーミングとは? 宝探しと環境学習のあいだ
ビーチコーミング(Beachcombing)とは、海岸に打ち上げられた漂着物を観察・収集する行為のことです。
「Beach(砂浜)」と「combing(くしで髪をとく)」を組み合わせた言葉で、砂浜をくしでとかすように丁寧に探索することを表しています。
砂浜には、貝殻・シーグラス(波と砂で磨かれたガラスの欠片)・流木・タコブネの殻・外国から流れ着いた漂着物など、多種多様なものが打ち寄せられます。
コレクターや研究者にとっては興味深い活動であり、拾った漂着物でフォトフレームや流木アートをつくる「ビーチクラフト」として楽しむ人も増えているのです。
砂浜に何が流れ着いているのか? 漂着物の現実
ビーチコーミングで目にするのは、美しい貝殻やシーグラスだけではありません。
ペットボトル・食品容器・漁業用の発泡スチロールブイ・プラスチックごみなど、日常生活でよく見かける日用品が砂浜に大量に打ち上げられています。
日本の海岸には、韓国・中国・ロシアなどの外国語が表記されたごみも漂着しており、海がいかに国境を越えてつながっているかを実感させてくれます。
砂浜で見つかる「危険な漂着物」にも注意
漂着物の中には、薬品の入ったプラスチックタンク・注射針・発煙筒など、危険なものが含まれることもあります。
海洋生物多様性保全関係機関ネットワークは、ビーチコーミング実施時の注意として、長靴・手袋の着用を推奨しており、危険物を発見した場合は触れずに最寄りの自治体・警察へ連絡することを呼びかけています。
楽しさを前提にしながらも、安全への配慮が欠かせません。
砂浜に潜む見えない脅威——マイクロプラスチックとは
ビーチコーミングで拾えるプラスチックごみよりさらに深刻なのが、肉眼では確認しにくい「マイクロプラスチック」の存在です。
その発生源は大きく2種類に分けられます。
一次マイクロプラスチック:
製品に最初から小さなサイズで使われているもの。
化粧品・洗顔料のスクラブ剤(マイクロビーズ)、工業用原料のレジンペレット、合成繊維の衣類の洗濯時に出る繊維くずなどが代表例です。
二次マイクロプラスチック:
大きなプラスチック製品が波・紫外線・砂によって長い年月をかけて細片化したもの。
ペットボトルやビニール袋が海中や砂浜で劣化してできます。
問題の深刻さは、一度環境中に流出したマイクロプラスチックはほぼ回収不可能という点にあります。
砂浜の砂粒と混じり合い、海中に漂い、海底に沈んでいくマイクロプラスチックを取り除く手段は、現時点では存在しません。
日本近海の深刻な実態と、世界規模の問題
海洋プラスチック汚染は、すでに地球規模で広がっています。
環境省の環境白書(令和元年版)によると、世界全体で毎年約800万トンのプラスチックごみが海洋に流出しているという試算があり、このまま対策が進まなければ2050年には海洋中のプラスチックごみの重量が魚の重量を超えるという試算もあります。
特に日本近海は深刻です。
環境省が2014年に九州大学に委託した「沖合海域における漂流・海底ごみ実態把握調査」によると、日本周辺海域のマイクロプラスチック濃度は世界平均の約27倍に達しています。
これは東アジア・東南アジアから大量のプラスチックごみが流出し、黒潮に乗って日本近海に集まりやすい地理的条件が影響しています。
ビーチコーミングが、環境問題を考えるきっかけになる
ビーチコーミングの魅力は、砂浜を「楽しみながら学べる場所」に変えることにあります。
収集した漂着物でクラフトをつくる「ビーチクラフト」体験は、子どもから大人まで幅広く実践されており、環境教育の入口として機能しています。
「この砂浜に打ち上がったごみはどこから来たのか」「なぜマイクロプラスチックは問題なのか」など、ビーチコーミングを通じてそうした問いを持つことが、海の環境問題を自分ごととして考える最初の一歩です。
砂浜はただの観光地ではなく、地球の現在を映す「鏡」でもあるのです。

